本気の恋を、教えてやるよ。
……でも、稲葉だったら。
もし稲葉が告白してくれたりなんかしたら、速攻頷いて、その華奢な体を抱きしめて絶対離したりしないのに。
なんて、都合のいい妄想だ。
自分から行動を起こす勇気もないくせに、そんな夢みたいなこと、起きるわけが無い。
その日から俺は極力二人を見ないようにした。
これ以上稲葉を好きになっても不毛だし、辛いだけだから。
なのに、言うことを聞かない俺の体は勝手に稲葉を目で追ってしまうもので、気づけば視界に稲葉を捉えてしまう日々が続いていた。
いつ見ても明るくて、真剣で、たまに困った顔をしている。
そんな姿を見てると日に日に恋心は募っていくばかりで、俺はマゾなのか?と思う日もあったりして。
けど、そんな風に稲葉を見ているからこそ、気付くこともあった。
それは、いつからだっただろう。
ここ最近、稲葉の表情に時折、フッと陰が差すことがあった。