もう一度、その声が聞きたかった【完結】
私は彼の胸を押し返して彼の顔を見る。

彼は私に笑顔を向けているが
目は一切笑っていなかった。

そんな彼の顔が、表情が…
あの事件の男とタブって見える。

一瞬であの時の恐怖が蘇り
私の体は震えて目から涙が流れる。

「ゆ、うと…こわいよ…
け、結婚は、できない…ごめん…」

彼から笑顔が消えた。

私は鞄をとり
彼の部屋から飛び出した。

急いで自宅に戻り
ボストンバッグに荷物を詰めて
タクシーに乗り込んだ。

とにかく彼から離れたかった。

駅に向かうが新幹線にはまだ乗れない。
高速バスで静岡に行くことにした。

バスに乗る前に母に連絡する。

急な帰省連絡に
少し驚いていたが喜んでくれた。

高速バスで静岡までは2時間ちょっと。

バスに乗り込むと
私は何も考えたくなくて静かに目を閉じた。
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