後輩男子が極上に甘い。
「早かったですね」
「ち、千歳くんもね」
…ダメだ。顔が見られない。
帰って来てすでに一息ついたらしい彼は、制服からラフな格好に着替えていた。
黒いTシャツにスウェットパンツ。何気ないシンプルな服も、彼が着れば生き生きとしているように見える。
帰宅部エースのなっちゃんより早くて、帰りのホームルームが終わってすぐ帰って来たわたしよりも早い。……やっぱり千歳くんって何者なんだ。
「…。杏花さん」
「あ、わたし着替えてくるので!失礼しますっ」
階段を駆け上がる。いつもつまずいて転ばないようにゆっくり上るのに、自分でも驚くくらいの速さだった。
バタンと部屋の扉が閉まると、力が抜けたように座り込んでしまった。
「…ちょっと、よくない態度だったかなぁ…」
制服のスカートが皺をつくる。
…すぐ立って皺を直さないと、と思うのに、身体に力が入らなかった。