幼なじみが愛をささやくようになるまで〜横取りなんてさせてたまるか〜
***
ひまりを送るために車を走らせ始めるとあっという間に話し声は聞こえなくなり、スースーと静かな寝息が聞こえてきた。
赤信号で止まり、横を見るとドアに寄りかかりながら眠ってしまっていた。
後部座席に置いてあったブランケットを取るとひまりの体にそっとかけてあげたが起きる様子はなかった。

久しぶりにひまりに会うと大人になったことを急に感じさせられた。
赤ちゃんの頃から見続けてきたひまりは化粧をしてヒールを履いて仕事をするようになっていた。
ここ数年がむしゃらに働いてきたためひまりに会うのは年に数回だけ。
会うたびに綺麗になっていく姿はとても眩しかった。

昨日陽太と3人で食事に行くと俺の知らない間に陽太はひまりとよく会っていた。
いくら仕事で安く買えるからと言っても大量すぎる服をプレゼントしていて、部屋に上がることもなんとも思っていないようだった。
泊まるか?なんて言われていて驚いた。
陽太とひまりはそんな関係なのか?と慌てたがひまりはなんとも思っていなさそうで少しホッとした。
しかし、部屋の掃除までしていると聞き俺はまた嫉妬した。
どうして陽太はひまりの心を掴むのが上手なんだろう。
昔からそうだった。
陽太はいつでも周りを明るくさせる才能があった。みんなの中心にいて人気者だった。でもひまりのことは別格であまりの可愛がりように周囲はピリピリとしてひまりに当たっていた時もあった。陽太はそれに気がつくと「ひまりに手を出すなら俺は許さない」とみんなの前ではっきり宣言していたのを俺は知っている。おちゃらけているだけではなく、ちゃんというべきことは言えると双子ながら誇らしく思った。それからは目立って手を出す奴はいなくなったが地味な嫌がらせは続いていた。
俺はひまりが辛い間に合わないよう目を光らせていたが、陽太ほどではないが目立ちがちな俺もひまりにとっては家で会う時とは違い、外で話すだけで萎縮していた。
見かねてひまりの部屋を夜、訪れるようになったがやはり部屋で会うひまりはいつもと同じでゆるんだ表情をしていた。
いつもこんな顔をさせてあげたいと思っていたがひまりは逃げるように高校、大学と俺たちから離れたところを選んでしまった。

それでも俺は何かあるたび、ひまりの部屋にいっては元気付けていたつもりだった。

けれど俺が弁護士になるため身を削るように勉強し、国家試験に受かったがそれが終わりではなく始まりだった。そこからは事務所に入り、ボス弁に付きひたすら勉強の毎日。こうして何年も修行を続け、ようやく独り立ちして余裕が出てきたところだ。
ふと周りを見る余裕ができると、ひまりは陽太と小さい頃のまま、それ以上に良好な関係を築いていた。
その話を聞くたびに胸の奥が疼き、つい手をぎゅっと握りしめ拳を作る自分がいた。
陽太よりも俺の方がずっとひまりのことを見てきた。守ってきたつもりだった。
でもそれは隣に住む幼なじみとして、ひまりの兄としてだったのか。
陽太と今もこうしていい関係を築いていると聞くだけで苦しくなる思いは嫉妬なのか。

横を見ると今も寝息を立てているひまりがいる。髪の毛が顔にかかっており俺はそっと横へ流してあげた。ひまりは俺が触ったことにも気が付かなかった。
そのまま俺はひまりの唇に自分の唇をそっと重ねた。
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