幼なじみが愛をささやくようになるまで〜横取りなんてさせてたまるか〜
夜になり、陽ちゃんから電話が来た。

『ひまり! ホテル取れたぞ!』

「本当? すごく楽しみ。陽ちゃんすごい」

私は興奮し、声が大きくなった。

『新潟のいつものスキー場でいいよな? 部屋が一つしか空いてなかったんだけどいいよな?』

「うん。いいよ。今年1回も滑ってないから誘ってくれてありがとね」

私がそう言うと陽ちゃんもいつもよりさらにテンション高めになっているのが早口からもわかる。
2人で「めちゃくちゃ朝はやく出よう」と約束し、高速バスの予約をした。
電話を切ると私はまだ少し早いがウェアを出してきて確認したりと遠足前の子供のようにテンションが高くなった。

陽ちゃんのスノボ姿を見るのは久しぶり。陽ちゃんは運動神経の良さはどのスポーツでも遺憾なく発揮され、スノボも滑る姿はいつも目を見張るものがある。
ゲレンデで目立ってしまうのもいつものこと。
なので私は自然と1人で滑ることが多い。もちろん技術の差もあるけれど、徐々に目立っていくにつれて離れるようにしている。
昔はそんな私を見て楓ちゃんがさりげなく様子を見に来てくれてたな、と思い出した。
楓ちゃんだってかなりの腕前なのに私に合わせて滑ってくれていた。お昼にいつもカレーを注文してくれてたな、なんて思い出し笑いしていると突然スマホがなりメッセージを受信した。

【14日仕事か?】

楓ちゃんらしい短文にクスッと笑ってしまう。

【休みだけど陽ちゃんとスノボに行くの】

そう返信し、続けてまた打とうとしているとすぐに電話がかかってきた。

『ひまり!陽太とスノボに行くのか?』

あまりの勢いに驚いてしまう。

「あ、うん。久しぶりに新潟に行こうって」

『俺も行く!』

「いいけど泊まりだよ。楓ちゃんは月曜日仕事でしょ?」

電話口で伝えると急に楓ちゃんらしからぬ大きな声を出した。

『泊まりだと?!』

「うん。たまたま連休で、陽ちゃんも休みが合わせられたの。楓ちゃんは日帰りにする? 新潟だから帰れないことはないよ。私たち朝一番のバスに乗るつもりだし」

大声を出した割には急に静かになってしまい心配になった。
最初から声をかけなかったから気分を悪くしてしまったんだろうか。

私は恐る恐る様子を伺う。

「ねぇ、楓ちゃん?最初から誘わなかったことを怒ってる?ごめんね。本当に今日決めたばかりなの」

そういうと楓ちゃんは心ここに在らずな返事がしか返ってこない。

『あぁ、えーっと。こーしたら……』

「楓ちゃん?」

しばらく楓ちゃんの独り言を聞いていると、また突然大きな声を出した。

『よし!俺も泊まりで行く。陽太の部屋に泊めて貰えばなんとかなるだろ』

とても嬉しそうな声の楓ちゃんにとても言いにくい。私と陽ちゃんが相部屋なのだと伝えるのが忍びない。

「楓ちゃん……ごめんね。私が陽ちゃんと相部屋なの。部屋がひとつしか空いてなくて。だから、その」

「なにーっ!」

楓ちゃんの声はさらに大きくなった。

「ごめん。楓ちゃんを泊めたくないわけじゃないの。ただ、ツインに3人は無理かなって。でも一緒に行こう。私もホテル探してみるから」

私は決して楓ちゃんと行きたくないわけではないし、嫌な気持ちにならないようフォローした。そんなに怒るとは思っていなかった。楓ちゃんが声を荒げるのは珍しかったので正直驚いた。

『仲間はずれにされたことを怒ってるんじゃない。同じ部屋に泊まることを怒ってるんだ』

「へ?」

私は拍子抜けしてしまった。
私と陽ちゃんが行くからそれを怒ってるのかと思ってたら一緒の部屋だから怒ってるなんて。

「楓ちゃん、私小さな頃から2人の家にお泊まりに行ってたよ。2人もうちによく来てたじゃない。今さらだよ」

『年が違うだろ!』

「でも、陽ちゃんはお兄ちゃんみたいなものだし」

私にとっては一緒の部屋に寝るのなんて今さら。なんでそんなことを心配するのか。
そりゃ別の部屋があればベストだけど無いなら相部屋でも気を使わない関係だと私は思っていたんだけど。
楓ちゃんは私と同じ部屋だと気を使うのかな?

『とにかく俺がホテルを探すから!』

それだけいうと電話が切れてしまった。
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