幼なじみの一途な狂愛
「いや、さすがにそれは……」

「なーんだ!残念!!」
乙哉は微笑んだまま、テーブルに置いていた雑誌に目を向けた。


梨々香が着替えを済ませて、街へ出かけた二人。
二人並んで、ゆっくり歩く。

「梨々、どっか行きたいとこある?」
「うーん。そうだなぁー
これっさ。
一応、デートなんだよね?」

「うん!」
「乙哉なら、どんな所に連れてってくれる?」

「俺なら━━━━」

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「うわぁー綺麗~!」
「だろ?
なんてことない、丘の上の公園なんだけどさ!
穴場なんだよ!」

「へぇー、景色が一望できるね!」

「ここ、夜来たらヤバいよ?」
「そうなんだぁー
綺麗なんだろうなぁ~!」

「うん、言葉失うくらい綺麗だよ!」

「元カノと来たことあるとか?」

「━━━━━━は?」
乙哉の雰囲気が黒く落ちた。

「え……乙、哉…?」

「………いねぇよ」

「え……」

「そんな女、いない」

「乙哉、今までお付き合いとかしたことないの?」

「女はいたことあるけど、恋人はいたことない」

「え?え?言葉の意味がわからない」

「俺が“恋人”にしたいと思ったのは、後にも先にも“梨々”だけ。
今までの女は、来るもの拒まず去るもの追わずって感じだった。
キスしてっつうからして、抱いてっつうから抱いた。
自分から“したい”と思ったこと、今まで一度もない。
俺は、梨々にしか何も感じない。
梨々だからキスしたい。
梨々だから抱きたい。
全部、梨々にしかしたくない」

なんで、乙哉はこんなに真っ直ぐなのだろう。

普通に考えたら、酷い話だ。
梨々香からすれば、愛情のないキスやセックスはあり得ない。

でもきっと乙哉は、ただ一途に“梨々香だけ”を想っていたのだろう。

「乙哉、最低」
「だな。でも、女の方も最低だぞ」
「なんで?」

「確かに来るもの拒まずだけど、ちゃんと俺はコクられた時に言うんだ。
“俺はお前を好きになれない”って。
それでもいいっつうから、つるんでただけ」

「そう……
最低だ……みんな」

「ん?梨々?」

「乙哉も、その女性も……私も……」

「り、り…?」



「どうして真っ直ぐ、ただ…正しいことだけ、できないんだろう。
なんで、奥さんがいてもいいって思っちゃったんだろう。どうして………」




乙哉が梨々香を、包み込むように抱き締めた。

「梨々はただ……寂しかっただけだろ?
確かに、不倫は最低だけど……梨々は寂しさを埋めてほしかったんだろ?
ごめんな。
俺が高校卒業しても、ちゃんと梨々の手を放さないでいたら……こんなことにはならなかった。
俺が!寂しい思いなんて、絶対させなかったのに。
ごめん!ごめんな……!」

梨々香も、乙哉の服を握りしめ静かに涙を流していた。
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