唯くん、大丈夫?
「…あっ、てらちん。」


突然唯くんが後ろを指差して言った。



「え!てらちんってあのてらちん?どこどこ!?」

わたしは久しぶりに聞いた恩師の名前に興奮して、血眼になってその姿を探す。


…んん?どこだぁ?全然見当たらないな。

目を凝らして見ても、それらしき人はいない。

あれ?そういえば唯くん、てらちんって呼んでたっけ…?



「んー?唯くん、てらちんいないよぉ?」


唯くんの腕を引いて聞くと、





「ッあーーー。」


唯くんが突然、らしくない声を出して俯いた。





「へ?どしたの?」


「………なんも?」




唯くんがお水をゴクゴクと飲んでる。


んん?どうしたんだろ。


あ、そうだ。日本酒日本酒〜♪


私はとっくりを傾けてお猪口に日本酒を注ぐ。




「あれ」




全然入ってない。

お猪口に入ったのはほんのちょびっとだけの日本酒。


あれれー?

私もうそんなに飲んだっけ?


「フフッ、まぁいいやぁ。」


私は味見程度のその量をクピッと口の中に運んで、


そこでプツッと記憶が途絶えた。






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