唯くん、大丈夫?

「…唯、行ったよ」

教卓の中で頭を打って痛がる私を、美琴が冷ややかな目で見下ろしてる。

そういうお顔も美しいね、美琴ちゃん。


「唯と喧嘩でもしたの?」

大人しく席に座ると、美琴が小さい子供を宥めるお母さんみたいに私を諭す。

「し、てないよ」

うん。喧嘩はしてない。

「じゃあなんで逃げてるの。唯、落ち込んでるよ。」

「えー?またまた〜!唯くん落ち込むなんてほとんど見たことないよ〜」

唯くんが落ち込んだといえば、おじさんが来た文化祭の時ぐらい。
それでも次の日にはケロッとしてたけど。


「優花」


美琴がヘラヘラする私を牽制するようにピシャリと名前を呼んだ。


「唯の気持ち、伝わってるんでしょ」

「…」


それは

…嫌というほど、伝わってる。

だってあんな、



『優花が好き。俺と付き合って』



あんな真っ直ぐ言われたら、疑いようがない。


「じゃあなんで逃げるの。優花も同じ気持ちなんじゃないの?」

美琴が、俯く私の頭をそっと撫でる。

その手がすごく優しくて、その優しさに押し出されるように本音がポロッと出た。


「…こわいんだもん」

「こわい?」

「だって」


心の隅っこでうずくまってる私が少し顔をあげる。


「私、いつも元気なわけじゃない」


初めて空気に触れる私の本音は、情けなくプルプル震えてる。
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