今日から君の専属マネージャー

正面玄関にたどり着いてそっと扉を開けると、朝の警備員さんがまだそこにいた。


「ああ、あんたはさっきの……」

「あ、く、くまさん?」


私の言葉に、くまさんはいぶかしげな顔をする。


「羽瀬さんなら、さっき戻ってきたぞ」

「え?」

「ほら、そこ」


 くまさんの太い指が差したその先には、首からタオルをかけて、軍手をしながら荷物を運ぶ涼ちゃんの姿があった。

顔だちやスタイル、出ているオーラが明らかに違ったけど、下手したらスタッフと間違われてもおかしくない働きぶりだった。


「俺はここの撮影スタジオで警備をずっとしているが、あの子はほんとよく働くなあ。

モデルだか何だか知らんけど、こんな仕事してる若い奴は、顔とスタイルがいいだけで、ちゃらちゃらして、女にちやほやされて、スタッフを足蹴に自分はふんぞり返ってるものかと思ってたけど」


 私も大体同じイメージだったけど、他人から聞くとひどい偏見だなとも思う。


「でもあの子は違うぞ。

撮影が終わってからもああやっていつもみんなの手伝いをしてるんだ。

自分の仕事が終わって他の仕事して、こうしてまた戻ってくるなんてこと、しょっちゅうだ。

スタッフにも気配りできて、俺の名前まで覚えててくれて」


 くまさんはしみじみと感慨深げに腕を組んで、涼ちゃんをうっとりした目で見ている。


「あんた、吉田さんの代理のマネージャーなんだって?」

「ああ、はい」

「あんたのことも、スタッフに説明して、フォローして、ほんとならマネージャーがやるような仕事も、一人で頑張ってやってたぞ。

吉田さんの躾がいいんだろうが、若いのに礼儀も気配りもちゃんとできて、ほんとに素直でできの良い子だよ。

それでイケメンって、完璧だろ」


__完璧。


 ちょっと前までなら、「うん、うん」とおおきくうなずいていたところだけど、今はその言葉に、どこか引っ掛かりを覚える。


< 24 / 136 >

この作品をシェア

pagetop