ずっと探していた人は
「もー、食べながら歩かない!食べ終わってから歩く!何度言ったらわかるの」

「まあ、細かいことはいいじゃん!」

「よくない! お行儀悪いよ!」

徹とのいつも通りのやりとりに笑う由夢を横目に、徹のために近くの椅子を机に運ぶと、徹はサンキュ、と言いながらドカッと座った。

「加恋、お願いがあるんだけど」

「英語の宿題?」

だいたいこうしてーと言いながらも、ほとんど毎日だけどー徹が昼休みに私の元へやってくるときは、宿題を見せてと頼まれることが多い。

きっと今日もこのパターンかと予想し、私から先手を打つ。

「あ! やべ! 次英語か!」

「そーだよっ」

「やべー、忘れてた」

「それで、用件は?」

英語のノートも貸してくれ、という徹を無視して、私はお弁当を食べながら一応聞く。

「あ、そうそう」

徹がおにぎりを飲み込みながら言う。

「俺、今すっごいピンチなわけ」

「どうして?」

いつでもどこでも声が大きくて明るい徹が、いつになく真剣な表情で言うから思わず私はギョッと徹を見る。

「俺、野球部じゃん?」

「うん」


徹は小学校入学と同時に野球を始めて以来、高校生になった今でもずっと野球を続けている。
そして、ただ野球を続けているだけではなくて、徹は本当に野球が大好きで、部活の朝練と放課後練に加え、家でも毎日遅くまで素振りをしている。

本当に野球が大好きでたまらないのだ。


「俺が野球、頑張っていること知ってるだろ??」

「う、うん」

何の話が始まったのかいまいちつかみきれず、私は曖昧にうなずく。

「だったらさ、俺たちに、勉強を教えてくれ」

「はあ??」

どうして野球の話から急に勉強の話?

話の流れがつかめず、私は思いっきり顔をしかめた。

「野球の話からどうして勉強の話になるの?」

私たちの話を聞いていた由夢も不思議に思ったのだろう。

私の代わりに徹に聞いてくれた。

「もうすぐ中間テストじゃん。中間テストの点数が悪かったら、試験明けの練習試合、出してもらえないんだよ~」

だから、頼む!!徹は両手を合わせてお願いのポーズをした。

「そういえば、去年の学年末試験の成績、すっごく悪かったんだったっけ……」

つい野球の練習に夢中になりすぎたせいで、赤点を2つも取ったと、徹が言っていたのを思い出す。

当時は悪びれた様子もなく、笑いながらだったけれど……。

「あのねえ」

私は徹に見せつけるかのように、思いっきりため息をついた。
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