青に染まる
 この人物がカウンターを飛び越え、僕に掴みかかってきた。

 何の用意もなく押し倒された僕は、カウンターを飛び越えた彼の身体能力に感嘆することと無残にも地面に落ちてしまった淡い青の花束たちを憐れむことしかできなかった。

 どうやったって思い出せないし、広がるばかりの「覚えていない」という事実があるだけ。

 そんな中、僕はぼんやりと彼を見上げた。深淵のような黒髪に、琥珀の瞳。先程は透き通って僕を映していた瞳は、今はよくわからない感情に支配されて濁って見える。

 琥珀(こはく)の原石は透明じゃないものもあるらしいから、彼の目はまさしく琥珀色なのだろう。なんてぼんやり考えていると、首にひやりとした感触が当たる。その感触に肩を跳ねさせる。

 淀んだ瞳のまま、彼は言った。

「以前と同じ状況にすれば、思い出してくれますかね?」

 そう(のたま)う彼の目には狂気の光が宿り、首にあてがわれた手がぎちぎちと喉を絞めていく。

 僕は息苦しくなりながら、彼の顔を見た。

 ぼんやりと頭に浮かぶのっぺらぼう。黒髪をしていたそれに、次第に彼の顔が重なっていく。




幸葵(こうき)、くん……?」
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