青に染まる

 放課後。僕は使っている机に、教科書と書きかけのノートを広げた。

相楽(さがら)は残って勉強ですか?」
「家に帰るとやる気なくすからね。今のうち」
「へぇ」

 すると背もたれを前にして、幸葵くんが座り直す。僕のノートを覗き込まれて、ちょっと恥ずかしい。

 お世辞にも頭がいいとは言えない僕のノートを見られるのは、気恥ずかしかった。

「字、綺麗ですね」

 予想外に褒められた!?

「そ、そんなことないよ!」
「いえ、字の綺麗な人は」

 一瞬、憐れみを帯びた目で見られる。

「頭がよくないというらしいので」
「そ・れ・は!」

 僕も似たようなのを聞いたことがある。叫んだ僕の顔はきっと夕焼けに負けなかっただろう。

「天才は字が汚いの間違いだよ!?」
「えっ、そうでしたっけ?」
「そうだよ、それに何気傷つくよ!」

 頭悪いとど直球で言われるとは思ってもみなかった。そりゃ、相手は生徒職員全員が口を揃えて神童と呼ぶ人だけれども! 比較対象を間違えている気がするよ。

「天才は字が汚い。確か脳の処理速度に手が追いつかないからって理由じゃないっけ」
「ふむふむ」

 まさか僕が幸葵くんに教えることがあろうとは。少し絶句した。こういう雑学には詳しいと思っていたのだが。

 すると彼はむっと眉根を寄せる。

「つまり俺は凡人と」
「いやいやいやいや、言葉の綾だから」

 ちなみに見せてもらった彼の字はすこぶる綺麗だった。字は読めるに越したことはない。憎たらしいほど綺麗な文字とにらめっこ。

「いつまで見てるんですか、相楽」
「メモまで丁寧で見易いとか……さすがというか……」

 例を一つ挙げれば、今日の数学の授業範囲についてだ。要所要所に下線が引かれ、場所によっては「他は全てこの公式の応用」と書かれている。

 正直見易い。その証拠に幸葵くんの教科書を見ながらだと、解く速さがいつもより速い気がする。するすると答えが導き出せるのだ。

「魔法みたいな教科書だね」
「それ俺のですってば」
「もうちょっと貸してよ」
「……仕方ないですねぇ」

 呆れたように言いながらも貸してくれる辺りいい人だ。けれど、気になることがある。
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