たぶんもう愛せない
<たぶんずっと愛してる>


たぶんずっと愛してる


「親父と?」

「うん、結婚する事になったの。でも、あんな派手な挙式を挙げてしまっているから海智さんにも迷惑がかかると思って」

一度は結婚して二人の間に永遠という子供がいたことがある奈緒が親父と結婚する事になったと報告の為に少し前まで一緒に暮らしていた二世帯住宅の“俺”の家のリビングに来ている。

「その事に関しては俺より奈緒の方がダメージが大きいでしょ。俺の方がどうとでもなるし、入籍前に俺の浮気が発覚して話し合いに時間が掛かったが結局は別れることになったって話でいいでしょ」

「でもそれって普通に事実だよね」
と、言って可笑しそうに笑う奈緒を見て、あれほど酷く傷つけてしまった人の笑顔をまた見れたのは、自業自得とはいえ嬉しいと思う。

「そう、事実だからそのままで」

ふふふふ
「もう、笑えないと思っていたけど海智さんともこんな風に話ができて良かったって思っている」

奈緒が出て行ってから引き出しの中に婚約指輪と結婚指輪、そして誕生日のプレゼントのピアスが入っているのを見つけた。

俺が壊した幸せの破片。

何度もチャンスはあった。
あの日、長い夢から覚めると途中から二つの記憶がある事に気がついた。その時、高校生のあの日に記憶が戻ってくれれば弥生さんとあんなことにならなかったのにと、誰に向ければいいのかわからない怒りが湧いてきたが、そうではない。全てが俺の弱さだったんだ。
いくらでも、やり直すチャンスはあった。
大学に入った時、社会人になって彼女を失った時、そして奈緒とのお見合いの日。

披露宴の夜も、親父に正直に話し、奈緒にも許しを乞えばよかった。でも、それをする勇気がなかった。何とかなるんじゃないかと。

そしてあの日。
長い夢を見たあの日が最後のチャンスだったんだ。

記憶の奈緒と今の奈緒の違いに戸惑ったが、何よりも不思議だったのは親父とのことだった。
記憶の奈緒は親父とそれほど接点を持っていなかった。食事は作ってくれたが二人でランチに行くこともなかったのに今回は二人がとても仲良く見えて、親父に対して嫉妬をするくらいだった。

きっと、あの最後のチャンスを逃してしまった時点で俺は奈緒との未来をも逃してしまったのかもしれない。


「俺も、あんなに酷いことしてしまったのに笑ってもらえるのは本当に嬉しいんだ」

奈緒は一瞬目線を下げると「お願いがあるの」と何かを決心したような表情で言った。

「何?奈緒のお願いなら何でも聞くよ

「海が最後に行ったダムに行ってみたいの、連れて行ってくれる?」

「ああ、いいよ」


週末、俺が運転する車でダムに向かった。

奈緒を喪った時、生きていく事ができないと思った。ただ永遠だけは幸せになって欲しかった。
俺と奈緒が生きていた証で、俺が愛した女性(ひと)との証だから。

本当なら自分が永遠を幸せにしなくてはいけないのに、その仕方が分からなかった。
だから、奈緒の両親に託し神山に見守ってもらいたかった。

途中で見つけた花屋に立ち寄ると奈緒は花束を購入した。
袋に入れられた花束は結構なボリュームがあり、過去の俺に対してだとすると申し訳ない気持ちになった。


目的地に到着するとダムまでは徒歩になる。
花束の入った袋を持ち、二人並んで歩く。

「海智さんはあの時、どんな気持ちでここに来たの?」

奈緒は俺の方を見る事なく真っ直ぐ前を見ている。
ザーッと川の流れる音が聞こえ、あの日来た橋に辿り着いた。

「絶望・・・かな」
「親父を」


「ん?」奈緒は小首を傾げながら手を差し出した。

「親父を助けてくれてありがとう、同じ間違いをする所だった」

「うん」奈緒は袋から花束を取り出す。

一つの花束かと思ったら、それは三つの花束だった。俺には、この橋から飛び込むまでの記憶しか無い。奈緒も、事故までの記憶しか無いと言っていたが

「”この”先の話を知っているのか?」 

その問いに奈緒は微笑むだけで応えることは無かったが、三つの花束を投げ入れる姿を見て、残り二つの花束の主に思い立つ。



そうか、あの世界ではここには俺と神山と永遠が眠っているんだな。


誰も幸せになれなかった。



年齢的に親父は先に逝ってしまうだろう、だがその後も奈緒をかつて愛した男として、今も変わらず愛する者として一生側で見守っていく。



俺は奈緒を

たぶんずっと愛してる






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