たぶんもう愛せない
〜現在〜

タイミングが良すぎる。
海智やあの女が現場を見ていたということはないと思う。そうなると、海智の秘書である神山圭が見ていたのか、何かしらの方法で知り弱っている私に付け込んだのかもしれない。

私は戻ってきたんだ。
どうせなら、岸課長と付き合う前に戻りたかったが、神様が私にチャンスを与えてくれた。

「結婚を前提に付き合ってくれないか」

レストラン自慢の美しい西洋風ガーデンにあるガゼボで専務は柔かに私に言った。

前回は何を食べたか、何を話したかもわからなくなるほど緊張をして、そしてこの優しい笑顔に惹かれたが、今回は騙されない。

「どうして私なんですか?」

「立場上、早く身を固めたほうがいいということで引っ張り出されたと言うのが本心だけど、山口さんと会って考えが変わりました」

「どう言うことでしょう?」

「一目惚れです」

よく言う。
どうせ気に入られなければこの先あんな結末を迎えることもないし、ここで断ったところでクビにはできないだろうから、言いたいことを言わせてもらおう。

「そんなメルヘン信じるわけがないじゃないですか、本当はもっと違う理由があると思いますがあえて聞きません。ただ、披露宴を9月19日の11時からにして欲しいことと、仕事は結婚後に辞めることを約束していただけるのならお受けします」

海智は一瞬方眉が上がる。
どのみち、こんな見合い失敗したって構わない。

前回は岸の結婚が辛くてすぐに退職して新宮家に入った。そこで、家政婦のように使われながら12月に披露宴を行った。

「何か理由でも?」

白々しい、どうせ専務の犬である神山圭から連絡が入っているくせに。

何も答えない私に、含みのある笑みを浮かべ
「俺の理由を聞かない代わりに、君は君の理由を言わないということだね」

「はい」

「解った。じゃあ、それでいこう」

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