たぶんもう愛せない
「熱海?」

「熱海に別荘があるのよね、私は行ったことが無いけど、匠さんは時々一人で行っているのよ」

「別荘ですか」

「海智からは何も聞いてないのか?」

「ええ初耳です」
本当に初耳だ。前回はお義父さまとこんなふうに話すことはなかったから。

「管理をしてくれている人がいるからいつ行っても綺麗だよ、今度二人で行ってくるといい。静かでいい所だよ、いわゆる森林浴でヒーリングみたいな感じかな」

「素敵、海に聞いてみます」

「久しぶりに今週末でも行ってこようかな」

「写真を撮ってきてください」

「ああ、わかったよ」


自宅に戻り、リビングのテーブルに頂いたお土産を並べた。

「ただいま、どうかした?」

「おかえりなさい、お義父さまから北海道のお土産を頂いたの、どれから食べるか考えていたところなんだけど、その前に食事の支度をするね」

海は並べたお土産を見てから、着替えのためにベッドルームに消えていった。

じゃがポックル以外を冷蔵庫に入れて、テーブルに食事を並べた。


「これは?」

「エイ、軟骨が美味しいのよ」

「へぇ」と言って煮付けを口に運んでいく。

「本当だね身はふわふわなのに、コリコリとした軟骨の食感がいいね」

海は美味しそうにご飯を食べている、いつもと変わらないはずなのに、どうしてだろう?
何かが違う気がする。

「熱海に別荘があるんだって?」

「奈緒に言ってなかったけ?」

「うん、さっきお義父さまから聞いた、海はあまり行かないの?って、もしかしてデートとか逢引きとかで使ってるとか?」

「そんな時間が無いのわかってるだろ。昔はよく行っていたよ」

「昔?」

「母さんが生きていたころ、3人で夏休み中や正月なんかも行っていたな」

「お義母さまとの思い出がたくさんあるのね、だから弥生さんは行って無いのかしら?」

「親父が母さんとの思い出を大切にしているのは確かだけど」

ちくりと心臓を針で刺したような痛みを感じる。
なんでだろう。

「弥生さんが別荘に行かないのは、何もないところに行くのが嫌なことと、日焼けしたくないってことじゃないかな?」

「そういうことなのね、お義父さまが誘わないということじゃ無いんだ」

「いや、弥生さんが行きたいと言えば連れて行くだろうけど、親父が積極的にさそっているかというとそれは違う気がする。母さんの思い出の品が多い別荘には誘いにくいのかもしれない」

ちくり
まただ。

「今度、二人で行っておいでって言っていたよ」

「そうだな、今度ゆっくり泊まりに行こうか」

海のその言葉には笑って答えた。



未来の約束はできないから。
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