チョコにありったけの祈りを込めて
「衣咲、例の物は?」

「催促はおかしいでしょ」

「楽しみにしてたんだよ」


 唐揚げやじゃがバターなど、頼んだ料理に箸をつけていると、爽来が目をキラキラさせながら両手を私に差し出してきた。
 
 今日は二月十四日、バレンタインデーだ。
 催促される物といえば、チョコレートしかない。

 諸説あるそうだが、本来“聖バレンタインデー”は司祭の死を悼む宗教的行事だったらしい。
 なのに今では“恋人たちの日”として世界中で祝われていて、日本ではまだまだチョコを贈るのが主流だ。


「今年も手作りだよな?」

「……うん。まぁ」


 ニヤニヤとしたまま手を引っ込めない爽来に、私はあきれた表情をしつつも、楽しみにしてくれていたことに内心ではうれしさがこみ上げた。

 実は私は高校時代から、――― 爽来が好きだから。

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