sweets 〜 焼き菓子が結ぶ恋物語 〜

4.通じ合う想い

「2年前からの話は、ざっとそんなところだ」


パーキングエリアからの帰り道、友哉さんの左手は、助手席にいる私の右手の上にずっと置かれていた。

片手でハンドルを握るのは、危ないんじゃないかと伝えてみたものの、もう少しも離れたくないからとあっさり拒否された。


「そこから先は・・・二葉と施設で初めて会った日だから、もう分かるだろ?」

「んー、できたら・・・今日までのことも聞きたいくらい」

「何でだよ」


そう言って友哉さんは笑った。


「だって、実際に私と会ってみてどう思ったのか、すごく気になる・・・」

「そんなの・・・聞かなくたって分かるだろ」


照れているのか、私の方を見てはくれない。
いつも素っ気ないから、少しだけ意地悪したくなった。


「分からない」

「え?」

「教えて」

「・・・煽るなよ」

「煽る?」

「俺に何言わせる気だよ」

「何って・・・」


高速から一般道に降りて、車が少なくなったのを見計らって、友哉さんは路肩に車を停めた。

何も言わずに私の右手をつかみ、自分の方に引き寄せた。
その勢いで、私は身体ごと友哉さんの方を向いた。


「二葉・・・」


名前をつぶやいてから、友哉さんは唇を重ねてきた。
さっきとは違う、少し強めのキス。


「俺、2年分の気持ちがあふれそうなんだよ。いま全然余裕無い。だから煽るなって言ってるのに・・・」


その言葉を聞いて、きゅんとした。
心も、身体も。

私は左手をかばいながら、友哉さんの首に両手を回した。


「ね、あふれたら・・・どうなっちゃうのかな・・・」

「どうなるって・・・」


当然、分かっている。
分かっていて口にしているのだ。

友哉さんは一瞬目を閉じて、首に置かれた私の手をゆっくりと外した。


「帰ろう、二葉」


そう言って、車を発進させた。

友哉さんの左手は私は右手の上に戻ってきたけれど、視線はずっと前を向いたままで、私を見ることは無かった。


どうして・・・?
友哉さんとそうなってもいいと思っているのは、私だけ?

気持ちも行動も空回りした気がして、急に寂しくなった。



「母さん、出掛けたのか・・・」


深夜に友哉さんと帰宅すると、リビングのテーブルに『明日の夕方まで出掛けてきます』と書かれたメモが置いてあった。


「二葉、左手は大丈夫か? 痛みは?」

「あ、うん。大丈夫・・・」

「そうか。熱は・・・」


そう言って、私のひたいに手を当てた。
友哉さんとの距離が、また近くなる。


「・・・そんなに心配しなくても、大丈夫だから」


思わず目を伏せる。


「おまえ、ちゃんと医者の話聞いてたか?」

「え?」

「細菌感染して熱が出ることもある・・・って」

「あ・・・」


そういえば、そのための薬も出してもらっていた。


「だからパーキングで熱っぽくなった時、もしかしたらそれで熱が出たのかと思って、早く連れて帰らないとマズイって考えてたのに」


ああぁ・・・変な汗が出てくる。


「くっついてきて離れないし」

「それは・・・」

「どう思ってるか言わせたがるし」

「だって・・・」

「首に手を回して迫ってくるし」

「うぅ・・・」

「そんなことされて、俺がどれだけガマンしたと思ってんだ!?」

「あー、もう、ほんとにごめんなさい!!」


心配したんだぞ・・・そう言って、やわらかく抱き締めてくれた。
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