sweets 〜 焼き菓子が結ぶ恋物語 〜
可愛いって思わせてれば・・・。


「やだもう! 変なこと言わないで!」

「アハハハ」


友哉さんの言葉で真っ赤になっている私を、おもしろがって笑っていた。

間もなく焼き上がるチーズケーキをオーブンの窓からながめたまま、友哉さんは言った。


「俺も、二葉に会う直前はそう思ってた」

「え?」

「何かしてやりたいって思っても、してやれることが何も無いなって」

「そんな・・・」

「親父みたいに店を持ってるわけでもなく、母さんみたいに二葉の近くにいるわけでもなく、兄貴みたいに特別な資格があるわけでもない」

「・・・」

「何なら二葉は同業者だから、俺ができることは二葉だってできる。だから、本当に何も無いんじゃないか・・・ってね」

「友哉さん・・・」


焼き上がりを知らせるブザーが鳴り、友哉さんがオーブンから取り出した鉄板の上には、焼き色が綺麗についたチーズケーキが3台乗っていた。


「え? 3台?」

「ひとつは、二葉と母さんの分ね。半分ずつ」

「え、いいの? 嬉しい!」

「冷めるまで待てよ。また火傷するからな」

「うん」

「だけど今みたいに、俺にもできることとか、俺にしかできないことがあってさ。そういうもんなのかなって思った」

「・・・うん」

「二葉も、同じじゃないか?」

「同じ?」

「俺に何かあったら、絶対助けてくれるだろ?」

「もちろん」

「だから、何も心配しなくていい。これからずっと一緒にいるうちに、助けたり、助けられたりしていくんだから」


な?、と頭をポンポンされた。

それでいいの?
今は本当に何もできていないけれど、いつか私も、助けてあげられる時が来るのかな。


「まだちょっと熱いけど・・・ひと口食べてみるか?」


友哉さんがフォークですくったチーズケーキを、私に差し出した。
口に入れると、濃厚なクリームチーズの食感がクセになる気がした。


「・・・美味しい。すごく美味しい!」


カウンターに頬杖をついて、私が食べるところを笑顔で見ている。


「そうやって、美味しそうに食べてくれる二葉を見てるだけで、俺は充分だけどな」

「充分?」

「幸せってことだよ」


ああ。
また頬が真っ赤になる・・・。


「あー、まただよ・・・」

「煽ってる?」

「いや・・・可愛いなと思って」

「もう!」

「だから言っただろ? 可愛いって思わせてればいいってさ」


注文のチーズケーキを納品し、友哉さんの家に帰った。


「母さん、チーズケーキ」

「えー? 久しぶりね、友哉の焼いたケーキ」


どれどれ、と嬉しそうに頬張る。


「どう?」

「相変わらず基本に忠実ね。雑味が全く無い」

「0.1グラムの誤差もないからな」

「友哉が作るなら当然か。きっちりしてるものね」


あっという間にお皿が空になった。


「ところで、二葉ちゃんは友哉がパリに帰ったらどうするの?」

「あ、それは・・・」

「二葉は、俺がパリに連れて行く」

「え?」

「何だよ、反対なのか?」

「反対っていうか・・・大丈夫なの?」

「何がだよ」

「二葉ちゃんのご両親よ」

「あ、うちは母だけなんです。事情があって、私が小さい時に父が・・・」

「そうなの・・・それならますます心配よね。友哉、ちゃんとお許しいただくのよ」

「分かってるよ。これから行って来るから」


友哉さんと私は、ふたりで母を訪ねた。


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