sweets 〜 焼き菓子が結ぶ恋物語 〜
「少なくとも俺は、もう二葉のいない人生は考えられない。二葉は違うのか?」

「私も・・・同じ」

「おそらくお母さんも、二葉がいたから頑張れたと思うけどな」

「・・・」

「親父さんはどうなのか、今は分からないけど、それだって、きっと二葉が知らない理由があるはずだろ?」


友哉さんの言う通りだ。
それは分かっているけれど、ずっと溜め込んでぶつけられずにきた、私の気持ちの整理がつかない。

すっ、と頬に友哉さんの手がのびてきた。


「少しは落ち着いたか?」


そう言われてハッとした。

私・・・。
気持ちをぶつける相手を間違えてる!


「ごめんなさい、私・・・あぁ、どうしよう、ごめんなさい・・・」


さっきとは違う、後悔の涙があふれてきた。


「二葉、今夜は行くのやめるか?」

「・・・え?」

「お母さんに会う前からこんなに泣いてたら、行っても本当に話したいことが話せないんじゃないか?」

「そう・・・かもしれない」

「明日出直そう。な?」


私はうなずいた。

この人は・・・友哉さんは、どうしてこんなに私のことを思ってくれるのだろうか。


「友哉さん」

「ん?」

「あの・・・どうして、こんなに・・・良くしてくれるの?」

「え?」

「さっきだって、あれは母に言うべきで、友哉さんにぶつけることじゃなかった。俺に言うなって、怒ってもいいのに」


そうだなぁ、と前髪をかき上げながら言った。


「俺が怒ったら、二葉寂しいだろ」

「・・・寂しい?」

「ひとりで抱えるの、寂しかったろ?」

「・・・え?」

「両親のことも、店の強盗のことも」

「・・・」

「もし俺が怒ったら、きっとまた、二葉はひとりで抱え込む。そんなの、俺は望んでない」


ああ・・・。
涙が止まらない。

いつからの分なのか、自分でも分からないほど、何年分も涙を流しているような気がした。

ただただ、涙がこぼれ落ちた。


「また泣く〜。ほら、帰るぞ」

「・・・はい」



「二葉、家に着いたよ」

身体を揺すられて、目が覚めた。


「あ、ごめん、寝ちゃってた」

「泣きすぎて疲れたんだろ。もうそのままベッド入っちゃえば?」


ガレージから玄関に向かう時、前を歩く友哉さんのシャツの裾を引っ張った。


「ん? どうした?」

「・・・一緒のベッドで寝てもいい?」

「いいけど、寝れなくなるぞ」


そう言って、友哉さんは笑った。


私はベッドに寝転がり、友哉さんはベッドサイドに腰掛けて本を読んでいた。
右手で本のページをめくり、左手はずっと私の手を握ってくれていた。

ただ、それだけなのに。

どうしてこんなに、満ち足りた気持ちになるんだろうか。


「なんだ、眠れないのか?」


私に視線を向けた後、パタン、と本を閉じる音がして、友哉さんも私の横に寝転んだ。


「今この瞬間、二葉の横にいるのが当たり前な感じだけど、本当は、奇跡みたいなもんなんだよな」

「・・・うん」

「だから、大事にするって決めたし、絶対に離さない」


寝転がったまま引き寄せられて、あぁ、このまま・・・と思ったのもつかの間。


「しまった! 火傷の薬とガーゼ!」


友哉さんがガバッと上体を起こした。


「雰囲気に流されるところだった。二葉、持ってくるからちょっと待ってろ」


部屋を出る後ろ姿に、思わず吹き出しそうになった。
本当に、なんて優しい人なんだろう。
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