sweets 〜 焼き菓子が結ぶ恋物語 〜
「二葉、ウィークエンドシトロン、作れるか? もちろん鉄板は俺が持つし、買い物も一緒にするから」


ウィークエンドシトロン・・・とは、フランスの伝統菓子のことで、レモンのアイシングでコーティングされたバターケーキ。
生地にもレモン果汁が入っていて、甘酸っぱくて爽やかな風味の焼き菓子なのだけれど。


「もしかして、父のレシピで作るの?」

「そう。社長にサプライズだ」

「え? 社長?」

「ん?」

「友哉さんが働いているパリのお店って、もしかして・・・」

「あれ? 言ってなかったっけ?」

「今、初めて聞いた・・・」

「そう。俺は星崎さんの店のパティシエ。話の流れで、とっくに言ったかと思ったよ」


そうだったんだ。

本当に、なんて不思議な巡り合わせなんだろう。
全てのことが、ひとつひとつ線になって繋がっていく。
つらかったことも、寂しかったことも、全てが優しく・・・。


「俺、一度だけ食べさせてもらったことがあるんだよ。社長、柚子と生姜を使うだろ」

「そう」

「まりこさん専用のレシピだって知ってた?」

「・・・知らなかった」


そういえば、母はレモンの酸味が苦手で、筋肉量が少ないからいつも身体が冷えていると聞いたことがある。
だから、柚子と生姜なんだ。


「どうせなら、好きな味で身体にいいものを食べさせてやりたいって。砂糖も黒砂糖だろ? レシピは知らないけど、俺、味覚は確かだからさ」

「・・・」

「二葉?」


私も、そんなふうに大切に思われたい。
それが、友哉さんだったらすごく幸せ。

そんなことを考えていたら、材料を買うためのスーパーにちょうど着いた。
駐車場に車を停めてエンジンを切った友哉さんに、助手席から抱きついた。


「どうした?」

「うん・・・」

「答えになってないぞ」


そう言って、頭をポンポンなでて笑った。


「なんだか、昨日から両親に当てられっぱなしで、悔しくなった」

「アハハハ」

「なんだか、すごく思い合ってるんだもん。私の入る余地無いでしょ」

「なんだ二葉、やきもちか?」

「え? 誰に?」

「誰に・・・っていうか、ふたりのことが羨ましいんだろ?」

「そう。私も・・・って」


友哉さんの右手が私の顎を持ち上げて、目を閉じる間もなくキスをされた。


「もう1回するか?」


そう尋ねられて、私はうなずいた。


「正直だな」


微笑む友哉さんの表情を見て、今度は目を閉じた。


「社長のサプライズ、やめるか」

「え?」

「もう今すぐ帰って、二葉を抱きたい」

「え!?」


だってさー、と友哉さんは口をとがらせた。


「二葉のやきもちは、俺の愛情が足りないって言われてるみたいで、何か面白くない」


もしかして、すねてる・・・?
やだ、可愛い!!

思わずクスクス笑ってしまった。


「何だよ、二葉。どうして笑うんだよ? そんなことするヤツは・・・」


私に回した腕に力を込める。


「痛い痛い。ごめんごめん。もう笑わないから」


ふっと力が弱まる。


「・・・とか言わないとダメか・・・」


頭の上でブツブツと何か言っている。


「ん? 何なに?」

「俺、今まで二葉に一度も言ったこと無いと思うけど」



「愛してるよ」


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