sweets 〜 焼き菓子が結ぶ恋物語 〜
「親父・・・二葉のこと覚えてたのか?」


友哉さんも驚いている。


「二葉さん」

「・・・はい」

「2年前の事件の時は、二葉さんひとりに背負わせてしまって、本当に申し訳なかった」

「え・・・?」


頭を下げる友哉さんのお父さんに、その場にいた全員が神妙な表情になった。

何て言えばいいんだろう・・・。

突然のことに困惑して、思わず友哉さんを見たけれど、友哉さんも言葉を探しているようだった。


「でも、二葉には今日子さんと友哉くんがいたからな」


父の言葉が、場の緊張感を破った。


「安斉は知らないだろうが、ふたりはずっと二葉のことを思っていてくれてたんだ」

「・・・なんだ星崎、おまえだって知らなかったくせに」

「いい気なもんだよ。親父や社長が知らないところで、母さんと俺がどれだけ二葉を心配してたと思ってんだよ」

「本当よねぇ。ひと言謝れば済むと思わないでほしいわ」


さらに場が和んで、みんなで笑い合った。


「もう、いいんです。まさかこんな日が・・・こんなふうに笑える日が来るなんて、考えてもみませんでした」


私は心に浮かんだことを、そのまま口にした。


「二葉は、俺が一生守るから」


そう宣言した友哉さんを、紘基さんがからかう。


「友哉って、そういうこと言うヤツだったっけ?」

「うるさいな」

「それだけ二葉ちゃんが可愛いのよ」

「ふーん、いいなぁ友哉」

「あー、もう、帰ろうぜ二葉」


車のキーを手に、友哉さんが立ち上がる。


「後はみんなで仲良くやって。俺たちはこれで」

「え? あ、あの、今日はこれで失礼します!」


みんなが笑いながら手を振ってくれる光景を見ながら、私たちは安斉家を後にした。


行きたいところがあるから・・・と、友哉さんはどこかへ車を走らせる。


「ここだよ」


車を停めたのは、パリのジュエリーを扱うお店だった。


「さ、行こう」


背中を押されて中に入ると、陽の光を浴びてキラキラと輝く石がいくつも並んでいた。


「好きなの、選んでいいよ」

「え? 好きなのって、そんな急に言われても・・・」

「加工してネックレスにしてもらうんだ。指輪は仕事中できないけど、ネックレスならずっと着けていられるだろ?」


どれがいいかなーと、ショーケースをながめる友哉さんと一緒に見て回った。


「二葉、『せーの!』で指差すか?」

「えー、意見が分かれたらどうするの?」

「まぁまぁ、ほらいくぞ」


せーの!


私たちが指差したのは、ハートの形にカットされたダイヤモンドだった。

それを見た店員さんが、クスクスと笑っている。


「仲が良くて羨ましいですね。この石なら、2時間ほどでネックレスにできますよ。留め具の部分に何文字か刻印できますが、どうされますか?」

「二葉、何か希望ある?」

「『Tomoya』と入れてください」


2時間もかからず、お店から友哉さん宛てに、出来上がりを知らせる連絡があった。


「お待たせしました。こちらです。刻印もご確認くださいね」


ケースに乗ったネックレスは、光を乱反射してキラキラと輝いていた。


「綺麗・・・ねぇ、友哉さん」


友哉さんがケースからスッと持ち上げて、私の首の後ろに手を回した。


「着けたよ」


友哉さんと一緒に、鏡をのぞきこむ。


「どうかな?」

「似合う。可愛いよ」

「友哉さんて・・・可愛いとか、絶対言わないキャラだったでしょ」

「うるさいよ」

照れたような横顔を、とても愛しいと感じた。


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