Mazzo d'amore
兄もこの頃には昔に戻り、私には変わらず優しかったが周りにはめちゃくちゃ怖かった。

「お兄ちゃんさ、もうお家に戻れなくなるからごめんな」

「なんで?やだよ」

「大丈夫、お金は定期的に送るから心配しないで」

「私はどうしたら良いの?」

「親戚のおじちゃんが見てくれるって言ってくれてるからそこに行こう」

そして10才の夏休み。

私は離れた親戚のおじちゃん家にお世話になる事となった。

転校の手続きも済ませ地元から少し離れた。

父方の親戚で子供さんは既に成人して家を出てるので、気兼ねしないで良いと優しく迎入れてくれた。

そして夏休みに入り私は楽しく過ごしていた。

(お兄ちゃん元気かな?)

ただそれでもふと頭をよぎるのは兄の事。

これまで面倒を見てくれたのは親ではなく7才年上の兄。

私の事が邪魔だったと思うが、私の事を邪険に扱ったりとか一切せずに世話をしてくれた。

自分の欲しい物や、やりたい事を我慢して私を第一に考えてくれた。

周りから怖いと言われ友達からも近寄りがたい兄だったが私にとっては唯一無二の存在だった。

なのでいつか兄が私を迎えに来てくれると信じていた。

けれど夏休みの終わり頃、兄の健太がバイクの交通事故で亡くなったと聞かされた。

(また、交通事故…)

私はショックのあまり熱を出して数日間寝込んだ。

親戚のおじちゃんが葬儀や色々してくれたが父も母も顔すら出さなかった。

まあそもそも連絡先すら知らないのでどうしようもないのだが…

そして突然押しつけられたにも関わらずまるで自分の子供かのようにお世話してくれるおじちゃんおばちゃんは優しかった。

「ここからここまでぜーんぶください」

「なんだいそのセリフは?」

「んふふ、お店で一度は言ってみたいセリフ」

私のおままごとにもいっぱい付き合ってくれた。

家族が居ない私に少しでも寂しい思いをさせないように暖かくしてくれた。
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