Mazzo d'amore
【田中探偵事務所、所長、田中真彦】

「かなり優秀な探偵さんで腕は確かよ。3ヶ月で色々と京香さんの事を調べさせてもらいましたわ。育ちも悪ければ犯罪者が…」

私はガタガタ震えた。

高校3年生の時、ニュースで報道をされ生活がさらに一変したあの恐怖が再び脳裏に蘇ってきた。

「あなた以外家族全員犯罪者じゃない」

「……え?全員って?父と兄だけじゃなくて?」

「あら、知らなかったの?あなたのお母さんもね…」

「おい!言って良い事と悪い事があるだろ!母さんには良識がないのか!」

私が震えて泣き出したのを見計らい光太郎が守るように大声を出してくれた。

「確かにそうね。強い立場の私が言うと弱い者イジメみたいだわよね。でも、わかったでしょ。以上の事から結婚は認めません。結婚するなら親子の縁は切るわ」

濱谷家は地主で由緒ある家柄だった。

光太郎のお父さんも中学教師であるのと濱谷家へ婿に入るのでなんとか結婚出来たようだった。

育ちも教養もない私は何も言えなかった。

ご主人亡き後も家を守ってきた奥様に私は何も言えなかった。

しかし、光太郎は違い母親に激高した。

「わかった。それで良い。今の京香本人を見て判断したわけでなく探偵から知り得た情報だけで京香本人を否定するような家クソくらえだ!」

「光太郎!」

「父と母に捨てられた京香を救わないでどうする?父が生きてたら必ず救ってたと俺は思う。俺が愛してる人を守れないならこんな濱谷なんて名前は要らない。京香行くぞ」

そう言って光太郎は私の腕を引っ張って連れ去った。

「ふぅ!なんか色々一度は言ってみたい言葉の連続で楽しかった」

ニカっと優しい笑顔で微笑んで私の涙を拭いてくれた。

「ありがとう……でも、一度私と距離を置いて欲しい」

「京香?なんで?親の事なら気にしなくて良いから?」

「ううん、違うの。少し考えたくて……ごめんね、だから結婚の話しもなしにさせて」

全然違わなかった。

親の事は気にしないでと言われても無理だった。

私のせいで光太郎とお母さんや親族の間柄を壊すのがとてもとても怖かった。

光太郎の手を振り解き再び涙を流しながら歩き始めた。

私には到底耐えきれなく無理だった。
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