意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!



・・・



それからほどなく、約束の夕方。


「いつも輝の仕事終わりになっちゃってごめんね」

「ううん。陽太くんこそ、休みの日にこんなとこまで迎えに来てくれてありがと」


カフェに直接集合でもよかったのに、会社のほんの前まで迎えに来てくれていた。


「気にすること何もないよ。俺は、早く輝に会いたいだけだし」

「…………あ、りがと」


心配してくれてるんだ。
過保護だな。
あんな事件があったから――過剰反応しないようにするそんなストッパーが、甘い台詞にもぎ取られる。


「輝」

「え? 」


後ろから手を引かれて、照れて先を急ごうとするヒールが道路の上で数歩跳ねた。


「……ううん」


声にならなかった「どうしたの? 」には、陽太くんは首を振ったけど。
さりげなく道路側に立ってくれたんだと気づいて、頬がじわじわ熱をもち始める。
歩道側から意識して見ると、男の人が私の横を通り過ぎるたび、チラッと陽太くんの目が反応して、接触しそうなくらいの間隔になるとほんの少し、私の身体を寄せてくれていた。


「……大丈夫だよ? 」


恥ずかしすぎる。
私には紳士的な振る舞いだとしても、睨まれた人には身に覚えのない謎の敵意だ。


「……あ、ごめん。目、やばい? 」

「……ちょっとね」


「かなり」「結構」を省略して言い換えると、「分かってるんだけど、やめるつもりない」っていうみたいな、ふわっとした笑いが返ってくる。


「でも、用心するに越したことないし。どうせ、単純に他の男が輝の近くにいるの嫌だからそうなる」

「…………誰も、側にいるつもりないと思うよ」


通りがかっただけ――すら、誰の記憶にもないに決まってる。


「……そっかな。輝、可愛いから。側にいたいって思う奴は、俺だけじゃないよ」


(……あ……)


そうだった。
そもそも陽太くんとの関係がこんなに改善したきっかけは、誰だか分からない男に尾行されたことだったのに。


「でも、譲らないけどね? 」


失敗した返事を訂正する前に、陽太くんがにっこり笑って言ってくれたのは。


「……も、もう……」


優しさと――。


「ほんき。……っ、あき、」


見惚れてた。
屈託のない笑顔にも、そのすぐ側に隠れた熱にも、大人になれば誰だってもっている狡さにも。

だから、のんびり歩く私たちを迷惑そうに、狭い歩道で足早に向かってくる人なんて全然見えてなかった。


「……っぶな。大丈夫? 」


向かい側の男の人の肩すれすれ、一瞬早く陽太くんの胸に額が衝突した。


「ご、ごめん」

「全然。……輝」

「う、ん……っ? 」


呼ばれてすぐ見上げたけど、愛しげに落ちた陽太くんの睫毛を見ていられなくて、急いでまた視線を落とすと。

――ぎゅっ、って。

痛くはないけど、そっとと言うには締めつけを感じるくらい絶妙な強さで、抱きしめられていた。

俯く以外、どうしたらいいの。

やっぱり、陽太くんだなって。
ううん、知らない男の人だって。

目線を下げたって、真逆なのにそのどっちも意識せずにはいられない。

余裕なんてなくて、私はちっとも気づかなかった。
興味津々、迷惑そうな視線に混じって、ただじっとこっちを見つめる瞳が紛れてたってこと。








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