意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!




なんか、今日はお客さん多いな。
まあ、土曜日だもんね。
そう思いながら、案内された席に就く。


「本日担当します、田中です。よろしくお願いします」

「お願いします」


何だかもぞもぞするな……と思ってふと鏡を見てみると、後ろのシャンプー台から戻ってきた女性がチラチラこっちを見ていた。


「カットとトリートメントのコースでお間違いないですか? 」

「あ、はい」


なるほど。
見られてるのは私じゃなかった。


(確かに格好いい……かな)


「いかにも美容師さん」って感じの、ちょっと軽そうだけど可愛い系?
でも、声は意外と落ち着いてて、柔らかないい感じ。

年下っぽいけど。


(もー……)


すぐそれだ。
男の人を見て、すぐ年上・年下に脳が勝手に振り分けてしまう。


「長さはどうされます? 」

「あまり切らないで、整えるくらいでお願いします」


何様なんだろう……。
自己嫌悪したタイミングで、さらりと髪を掬われてドキッとしてしまう。
ほんの少し、ビクッとしてしまったかも。
ちょっと驚いたみたいに一瞬手を止めて、何かを確認しているのか、もう一度髪に指を通した。


「今日はお休みですか? 」

「はい」


カットやトリートメントの間も、そんな当たり障りのない会話だけ。
他人と喋るの苦手だから、ありがたい。
初めて話すのに「彼氏は? 」なんて振ってくる人もいるから助かる。
もしかして、この美容師さんも会話苦手なのかも。若干、緊張してるような。
ドライヤーを当てながら、髪をとく反対の指も気のせいかぎこちない。
まあ、美容師だからって、おしゃべりじゃないといけないなんてことないし。
いろんなタイプがいるよね――……。


「……あの。お名前、あきらさんってお読みするんですよね」

「え?……ああ、はい。よく男性だと間違われるんですけど……」

「いえ……! そうじゃなくて、その。……輝」


今、呼ばれた? 呼び捨てで?
びっくりして、初めてしっかり彼を見上げると、そこにはやっぱり緊張した面持ちの美容師さん――……。


「……俺、陽太(ひなた)だよ。覚えてる……よね。忘れちゃったわけ、ないよな」


――その名前を、私が忘れようがない。
田中陽太。
私の年下恐怖症の原因なんだから。
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