『お願いだから側にいて』~寂しいと言えない少女と孤独な救命医の出会い~
えっと、名前と、住所と、生年月日。
症状と、既往歴と、普段飲んでいる薬は・・・

私が書いているうちにも患者さんは増えていき、少しづつ人に押されて、いつの間にか問診台の隅っこに追いやられてしまった。
その間にも、
「すみません、ストレッチャー通ります」
白衣の集団に囲まれた患者さんが通路を運ばれていく。

なんだか本当に忙しそう。
私みたいな軽症者が来てもよかったのかしら。
でもな、受診するってパパに約束したし、このまま帰ってもママやおじさんが心配するだけだから。

「ったく、忙しいな」
「週末だからな」
「バレンタインデーなのに」
「関係ないさ。病人も怪我人も時間を選んではくれない」
白衣を着たスタッフが小声で話すのが耳に入った。

「大体さあ、今日の当直ってみんな若手だろ?ずるいよな。俺らだって楽しみたいよ」
「仕方ないさ先輩たちはみんな家族や恋人が待っているんだから、イベントごとのある日には若手に当直が回ってくるのはいつものことだろう。それに、救命部長から差し入れが来ていたぞ」
「まじ、やった」

小さな声だから周りの患者さんには聞こえないんだろうけれど、とても医療者とは思えない会話に驚いた。
でもまあ、見た感じ若そうに見える白衣の男性たちはおそらく研修医。
白衣を脱げば普通の若者なんだろうから、愚痴が出ても不思議ではない。

「おい、呼ばれてるぞ」
診察室の方から別の男性が声をかけてきた。

わあ、綺麗な顔。
愚痴をこぼしていた2人と同い年くらいに見えるけれど、精悍で引き締まった表情をしている。

「あ、ヤベ」
呼ばれた男性たちは慌てて診察室へ駈け込んでいった。
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