Loves only you
「いえいえ、杉浦さんが頭を下げていただく必要はありませんよ。先日、そちらの次長さんから丁重なご連絡とお詫びをいただきましてね。それで今日は、間を置かずに杉浦さんからご連絡をいただき、こうして来社いただいて、よかったです。」


相手は笑顔だった。そのあとも、和やかな雰囲気で、話は進んで行き、次回具体的な見積もりや出店プランを持って来る旨を友紀が告げると


「よろしくお願いします、私どもの方も準備を整えておきます。とにかく、あの空きスペ-スには、なかなかいいお話がなくて、こちらも困ってたんですが、リトゥリさんにはピッタリだと思いますよ。」


と相手も頷いて、友紀にとっての初商談は、滞りなく終わった。


「本日は、突然お邪魔して、申し訳ありませんでした。」


そう言って辞そうとする友紀に


「滝次長から、今度の担当は経験はまだ浅いですが、何事も誠実に取り組む者なので、よろしくお願いしますと言われていたのですが、お言葉通りの方だったんで、よかったです。」


担当は笑顔で言った。


「そう言っていただくと恐縮です。では、数日の間にはまたご連絡させていただきます。よろしくお願いいたします。」


最後にもう1度、漆原と一緒に頭を下げると、友紀は席を立った。出口へ向かうエレベ-タ-の中で


「先輩、まずはいい感触でよかったですね。」


漆原が思わずホッとしたような声を出すと


「うん、本当だね。次もこの調子で頑張ろう。」


「はい。」


友紀も思わず、笑みをこぼした。


このあと、2件の取引先を訪ねた友紀と漆原だったが、いずれも好感触で


「先輩、凄いじゃないですか。上々のデビュ-戦ですよ。」


帰り道、漆原ははしゃいだ声を出す。


「お陰様でね。でもさ、今日訪問したお取引先は、結局次長が、前もってキチンとお膳立てして下さってたから、スム-ズに話が進んだだけだよ。私たちは、そのレールの上に乗っていただけ。」


しかし、友紀は固い表情で答える。
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