若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 ……お腹空いた。
 朝ご飯を家で食べたので昼ご飯を買って来るのを忘れてしまった。そして、手元にあるなら五分でかき込むけど買いに行くまでの時間はないまま、既に二十二時。売店はもう閉まってしまった。
 忙しくしている間は忘れている空腹に、手が空いた瞬間襲われた。
 
 チョコか飴、持ってなかったっけ?
 鞄を漁ってみると、手に当たる冷たい感触。
 ……あれ? 瓶?
 取り出すとビタミンカラーのパッケージに彩られた栄養ドリンク。
 何でこんなものが鞄に?
 K製薬の新製品。よく見ると「試供品」と書かれている。
 試供品、試供品。最近、どっかで聞いた気がする。……あ。牧村さんだ。
 出会ったその日、半ばムリヤリ車に乗せられた後、手渡された気がする。あの時はホント微妙な体調で頭がまったく回ってなかった。よく分からないままに受け取ってしまい、鞄に放り込んだのだろう。
 ……栄養満点で空腹でも飲めるとか何とか言ってたっけ?
 これ飲んでみよっかな。
 蓋を開けてまずは一口。
 美味しい!
 何というか、ビタミンとエネルギーが身体に行き渡るかのようなサッパリした味わいで、後味も良く飲みやすい。そのままゴクゴク一気に飲み干した。
 飲み終わった後で改めてパッケージを見ると、牧村さんが言っていた通り色んな栄養素が詰め込まれていた。カロリーが結構入っているのも良い。エネルギー源にしたいのだから。
 
 牧村さん、ありがとう。
 心の中でお礼を言いながら、仮眠室に移動しがてら空き瓶をゴミ箱に入れた。
 数時間ほど寝た後、急変があり飛び起きて対応したりでバタバタしたし、救急車も何台かやって来たけど、何とか無事、丸一日の長い勤務時間を終えることができた。
< 103 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop