若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 シートベルトを締めると、響子さんは数秒栄養ドリンクの瓶をぼんやり眺めた後、蓋を開けてまずゴクリと一口。そのまま半分くらいを一気飲みする。
 良かった。好きそうだ。また買っておこう。

「何か食べたいものはありますか?」

「いえ、特に」

「じゃあ、良さそうな店を適当に」

 元より響子さんが何を食べたいとリクエストするとは思っていなかった。疲れた身体には優しい味の食べやすいものがいいだろう。
 本当ならこんな日こそ家庭料理が一番だと思う。残念だ。一緒に住んでいるなら、幾らでも作るし作り置きだってしておくのに。
 いや、作り置きなら今でもできる? 響子さん一人で食べさせるのではなく、日持ちのする惣菜を幾つか用意しておいて、遅くなる日は僕が温めて出せば良いんじゃない? ご飯は炊飯器に時短設定があれば早い。味噌汁くらいなら十五分で作れる。
 うん。次はその手も考えよう。

 と言うわけだけど今日は店に行くしかない。やっぱり和食だろうと第一候補に考えていた店へと向かう。

「五分くらいで着きます。明日もあるし近場にしますね」

「はい」

 響子さんはぼんやりと外を見ている。
 信号で止まったときに響子さんの横顔を堪能していると、ふっとこちらを見てくれた。ニコリと笑いかけると、響子さんは焦点の合わない目をゆっくりと僕に向けてくれた。
 眠いんだろうなと思っていると、すーっと目が閉じられた。



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