若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 なのに、牧村さんは私の話をニコニコ聞いている。

「最低限の家事なら私もできますし、美味しい食事や綺麗な部屋が必要ならヘルパーさんを頼めば問題なしです」

 当たり前のように言われて、妙に納得。

「……ああ、なるほど」

 そうか。お金ってそう使うんだ。
 ヘルパーさんっていくらなんだろう? こんな小さな部屋でも来てくれるかな?

「響子さん?」

「あ、すみません」

「……ヘルパーさんじゃなくて、僕と付き合いましょう?」

「えー」

 それとこれとは別問題だ。せっかく楽するための良い情報を教えてもらったんだから、使いたいじゃないか。

「一ヶ月! まずは一ヶ月お試しで付き合ってください」

「……一ヶ月?」

「はい。僕はあなたの仕事の邪魔は決してしません。父が医者だって言ったでしょう? それがどれほど大切な仕事か理解しています。後、家事も掃除もなんなら僕がしますから」

「え、ホントに?」

 うわ、ダメだ。ここ、流されるところじゃないから。
 けど、思わず顔がゆるんでしまう。
 牧村さんはニコリと嬉しそうに笑い、私の弱点を攻めてくる。

「昨日も今日も出来合いのお粥なんか持ってきちゃいましたが、実は僕、料理もできるんですよ」

「本当に?」

「海外では一人暮らしでしたし、自分で作ってました。家事全般もあちらでは男性がするのは普通ですし」

「へえー」

 そうなんだ。いいなぁ。
 過去付き合った相手の「手料理食べたいな」と言うセリフを思い出す。仕方なく作った料理も、配膳すら手伝わずに座って出てくるのを待つだけとか、じゃあ片付けくらいするのかと思いきや、もちろんしなかった。
 世の中そんな奴ばかりじゃないと思いたいが、家事能力を求められるのも「せっかく美人なんだから、もっとオシャレしなよ」とか女を求められるのもウンザリだ。

「良かったら、今日の昼と夜に手料理食べません?」

「え?」

「多分ですが、響子さん、栄養不良ですよね。少し元気の出るものを食べた方が良いと思います」
< 43 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop