若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 気が付いたら、外は真っ暗だった。
 物理的にはよく寝たと思う。けど、頭痛は全く治まっていない。頭を少し動かしただけで、ズキンと痛みが走る。
 そして寒い。ムチャクチャ寒い。何なら震えるくらい寒かった。てか、震えてるかも。
 よく見ると、ベッドの掛け布団の上で寝ていた。三月。真冬じゃないけどまだまだ寒い日も多い。先週は雪も降った。
 バカじゃないだろうか、私。
 そして、ようやく自分が目を覚ました理由に思い至る。

 ピンポーン
 ピンポーン
 ピンポーン

 これか。
 荷物? 何も頼んでない。
 新聞は取ってないし、テレビの視聴料は引き落としだ。ろくに見てもいないけど。
 それでも重い足を引きずって玄関へと向かう。
 集合住宅だ。何かしら問題が起きていたりと言うことも考えられるし無視はできない。

「は…い」

 喉が痛い。鼻声だ。どうやら本格的に風邪を引いたらしい。
 やっちまったと思いながら金属製のドアを冷たすぎと思いながら押し開ける。

「よかった!」

 と、そこで安堵の息を吐いたのは、朝助けてくれた男性、牧村さんだった。

「なんで?」

「あ、突然すみません。まず忘れ物です」

 と差し出されたのは名刺入れ。

「車に落ちてたそうです」

 受け取りながら首を傾げる。出した覚えはないけど名刺をもらって返さなきゃと一瞬思ったから、無意識で取り出していたのかも知れない。で、微妙な体調下で出しもしまいもしそびれていて、車の中でポロリと鞄から転がり落ちた、と。あり得る。

「わざわざすみません」

 受け取ると、もう片方の手がぬっと差し出された。

「後、これ、差し入れです」

「ん?」

 見ると白いビニール袋を差し出される。
 反射的に受け取ってしまい、いやもらえないだろと思う。

「頭痛がひどそうだったので頭痛薬、後風邪薬など何種類かと、熱冷まし用のジェルシートとパックのお粥とか色々。適当にですが」

 受け取れない。
 ……と思ってたけど、正直それはありがたい。基本、かなり丈夫な方なので家に常備薬なんてものはない。

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