若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
14.
 十八時過ぎ。N大学病院前。
 あ、響子さん。
 視界に約十時間ぶりの響子さんを見つけて喜びに心が一杯になろうかという直前、その隣に男の姿を見つけて、目が釘付けになった。

 ……誰だ、あの男は。

 親しげに響子さんと会話しながら歩いてくるのは、響子さんと同年代の男性だった。
 いかにも気の置けない仲だというのがよく分かる。同じ時間に勤務が終わって出てくるということは、おそらく同僚。
 響子さんは相手をなんとも思っていない。それは良かった。でも、相手の視線が響子さんの一挙手一投足を気にかけているのが分かってしまった。あれは恋する男の目だ。
 何故分かるかって? そりゃ、僕自身が響子さんに恋い焦がれているからだ。きっと、僕もあんな目をして響子さんを見ているのだろうと思う。いや、あんな生ぬるい視線じゃないかも知れないけど。

 僕は心を落ち着かせるべく大きく深呼吸をし、表情を整えると、できるだけゆったりとした足取りで響子さんの元に向かった。

「お疲れ様」

 響子さんとの距離約2メートル。
 声をかけると、響子さんは、

「え? なんで?」

 と僕の姿を見つけて驚いたように目を見開いた。隣の男性も

「え? ……誰?」

 と声を上げる。

「まだ体調が万全じゃないでしょう? お迎えに来ました」

 にっこり笑ってそう言うと、

「え、いや、元気ですよ?」

 と響子さんは小首を傾げた。
 うん。確かに顔色は悪くないし、元気に見える。良かった。
 今朝の様子からして大丈夫だろうとは思っていたけど、一昨日は高熱を出していたし、昨日は食べる時間以外はほぼ寝込んでいた。心配しない訳がない。
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