若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「すみません。先約があるので」

 反射的に会話に割って入っていた。
 にっこり極上の笑みを浮かべて、自分を指さす。

 響子さんとはまだお付き合いOKの返事はもらっていない。来週の予約ももちろんしていない。
 だけど、ごめん、響子さん。逃がしてあげるつもりは欠片もないんだ。
 今現在、響子さんに彼氏がいたとしても円満にお別れしてもらう策略で頭がいっぱいになるくらいには、あなたに夢中なんだ。もうあなたしか見えないんだ。もし結婚していても、やっぱり円満離婚からの再婚しか頭に浮かばない。もし子どもがいたら……考えたくもないし考える必要もない。だって、響子さんは今現在フリーなのだから。でも仮に響子さんに子どもがいたとしても、我が子として愛せる自信はある。

 響子さんの選択肢を勝手に狭めてしまい、申し訳ないことをしているかも知れない、と心の片隅でほんの少しだけ思っていた僕は、次の瞬間、その場で踊り出したいくらいの喜びに包まれた。

「そんな訳なんで、高橋先生、またの機会に。お疲れ様でした」
 
「お疲れ様、でした」

 響子さんの言葉に、高橋先生とやらはものすごくショックを受けた顔をしていた。
 先生……医者か。間一髪だ。響子さんに出会うのがあと少し遅れていたら、響子さんのパートナーの座をこの男に奪われていたかも知れない。
 本当に良かった。

 響子さんが同僚の先生を差し置いて、僕の言葉を肯定してくれたのが本当に嬉しかった。
 もしかしてお弁当のお礼かも知れないし、その前の看病のお礼かも知れない。でも何でも良いんだ。とにかく、来週も僕と過ごすことを選んでくれたのだから。
 響子さんに喜びと感謝の笑顔を向けた後、 

「では失礼します」

 と、高橋先生に笑顔で会釈する。
 高橋先生の心をたたきのめすために、響子さんの肩を抱いて立ち去りたい。そんな思いに駆られたけど、やめておいた。今は、響子さんに警戒されずに彼氏の座に納まるのが僕の一番のミッションだ。
 もちろん、彼氏だけで終わらせる予定はまったくないし、早々に籍を入れて名実ともに生涯のパートナーとなってもらう予定でいる。


   ◇   ◇   ◇

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