高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―


それは、ただ単に恋愛に興味がないからかもしれない。
でも、これだけ近くで向き合っていればそうじゃないことがわかってしまい……自然と頬が緩んでいた。

口の端が吊り上がるのを止める気も隠す気もない私を見た上条さんは、嫉妬を抱いた自分自身がなのか、それともにやける私がなのか、気に入らなそうに顔をしかめる。

でも、そんな顔を見せられても一度生まれた嬉しさは少しも欠けることなく私の胸をいっぱいに満たしていた。

「上条さん。好きです」

幸せで堪らなくて、言わずにはいられない。
そういう気分だったから素直に口に出したのだけれど、上条さんは尚もニコニコしている私をじっと見たあと真剣な顔つきに変わり、「悪い」と謝った。

「え? なにが……」
「約束を破るから、先に謝っておく」

そう言われた直後、上条さんが私に近づく。
そして、鼻先同士が触れる距離で顔を傾けた彼がそのまま唇を重ねた。

突然のことにびっくりして固まった私の腰に、逃げ道を塞ぐように上条さんの腕が回る。

しばらくしてそっとキスをやめた上条さんは、至近距離から私をじっと見てから、腰に回したままの腕で私を抱き寄せた。


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