高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―


「お客様が一方的に話して電話を切ってしまわれたんです。名前は控えていますし、うちの顧客なので名前から電話番号調べますから」

というか、私の仕事であって部長にはなんの関係もない。
名前から番号は簡単に調べられるし、折り返しの番号を聞きそびれたくらいでそこまで目くじらを立てることではない。

お客様が一方的に電話を切るなんて、そこそこあることだ。
そろそろボイスレコーダーとか仕込んで上に訴えてやろうかな……と考え始めた私に、部長が眉を寄せる。

「高坂さんさ、ちょっと気が緩んでるんじゃない? 営業ともしょっちゅう飲みに行ってるみたいだし、そういうのはどうかと思うよ。プライベートと仕事はわけるべきだよ」
「はぁ……別に、業務時間中に飲みに行ってるわけじゃないですし、公私混同をしてるつもりはありません。ただ、節度を弁え同期と食事したり飲んだりしてるだけなんですけど、それがそんなに問題ですか?」

思い出してみれば、毎回なにかにつけて〝営業と飲んでる〟ってことを注意されている気がして不思議になる。

同期と飲むくらい普通だ。
部長くらいの勤続年数になると、同期という関係性が薄れて飲む機会が減るからひがまれているんだろうか。

でも、私が頻繁に会う同期なんて後藤くらい……あれ?

そこまで考えたとき、以前営業の誰かが言っていた言葉を思い出した。
後藤を〝熟女キラー〟だと揶揄していたっけ、と。

なにかがひっかかって首を傾げたくなったとき、部長の大きなため息がそれを遮った。

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