高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―


「まぁ、高坂さんは知らないみたいだから教えてあげるけどさ、ホッチキスは普通右上なんだよ。で、横書きの書類は左上。こんなの常識だし普通誰でも知ってるんだけどね。新入社員だって知ってるようなことだよ。恥ずかしいね」

部長がこんなふうに私にだけネチネチとしたパワハラを行うようになったのも、水出さんが私に冷たく接するのを見てからだったように思う。

おそらく、水出さんが嫌っているであろう私をいじめ、水出さんを通して専務に媚びを売っているのだろう。
部長はもともと部署内の誰かしらにこうしてパワハラセクハラを繰り返していたので、それが私に固定された感じだ。

正直ストレスではあるものの、どうせ誰かが担わなければならない役割であるなら、このままでいいかと流している。
部長が定年を迎えるまでという期限を考えれば、やりすごせないこともない。

幸い、水出さんに同調して私に嫌な態度をとるようになったのは部長だけで、他の社員は普通に接してくれているのでそこまで病んではいない。私も、そしてこの部署も。

ちなみに、私が病まずに済んでいる理由はもうひとつ。
言い終え満足した様子の部長をじっと見上げて口を開いた。


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