高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―


「いえ、元からボロボロではあったので……なので、大丈夫です」

正直、まったく大丈夫ではない。でも、男性のせいだとは思わない。
こんなところで荷物をぶちまけた私のせいで、もっと言えばあの歩きスマホ男子高生のせいだ。

だから、この人を責めようとは思わないけれど……手の中のお守りは、心配事があると触るのが癖になっていたほどこの七年間ずっと身近にあった物なので、目に見えて壊れてしまった事実にショックを受けずにはいられなかった。

しかも、これから試験だ。これ以上ないほどにタイミングも悪い。

手の中のお守りをじっと見つめたまま私が動かなくなったからか、男性が「大丈夫か?」と声をかけてくるので、立ち上がり笑顔を作って顔を上げた。

「はい。すみません、大丈夫……」

そこで、初めて男性の顔を見たのだけど……あまりに綺麗な顔立ちをしていたせいで、声を失う。

二重の目に、綺麗な形の鼻と唇。無駄のない輪郭。雑誌で引っ張りだこの人気モデルと並んでも引けをとらない外見をした男性は、一六〇センチの私よりも二十センチ近く背が高く、スタイルもよかった。ますますモデルみたいだ。

右寄りの分け目からわけた髪は自然な感じで流されていて、前髪は眉にかかる程度。サイドは耳の半分を覆っている。

私が知らないだけで、本当に芸能人かもしれない。

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