高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―


上条さんがメッセージで指定した待ち合わせ場所は、海から近い駅。

この一週間、暇さえあれば携帯を確認し、初めて脱衣所まで持ち込んだりもしていたので、木曜日の仕事終わりにメッセージを受信していると気付いたときには、更衣室だというのに飛び上がって喜びたくなった。

お盆の帰省ラッシュの影響もあってか、電車も駅の周りもとても混み合っていた。
そんな中、なんとか待ち合わせ向かった先は大きなクルーザーが停船している港で、頭がついていかずに呆然とする。

私が住んでいる地域は海からそう遠くないし、ちょっと足を伸ばせば海を眺めたり時期によっては海水浴も楽しめるため、海自体はそこまで珍しいものではない。
けれど、船となるとまた別の話で……たぶん、初めて間近で見る、といっても過言ではないクルーザーを前に言葉を失った。

実際の豪華客船と呼ばれる船がどのくらいのサイズなのかはわからないけれど、目の前にあるこのクルーザーも私から見たら十分それに値して見える。

白い船体は三階建てで、横にズラッと並んだ窓からはオレンジ色の明かりがもれている。
八月の日の入りは遅く、空にはまだ明るさが残っているため、夕焼け色と協調するようなコントラストがとても綺麗だった。


< 57 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop