高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―


「肉食って言われちゃうのは、なんだかはしたない感じがして素直にはうなずけないですけど。あ、でも私別に誰にでも肉食なわけじゃなくて、上条さんだから……」

言っている途中で、伸びていた手に口を塞がれる。
顔に触れられ胸を弾ませている私に、上条さんがバツの悪そうな苦笑いを向けた。

「そういうのは思ってもいちいち言うな。……素直すぎるのも考え物だな」

お祭りの明かりに照らされた微笑みに胸が撃ち抜かれる。
トクトクと心地いい音を立てる胸に気付いて、慌てて会話を探した。

「あー……えっと、そうだ。神社ならお守りを返納できる場所がありますよね。ちょっと探してみてもいいですか?」

色々と重たい責任を負わせすぎてボロボロになったお守りは、未だ私のバッグのなかにある。
ずっと返納しなくちゃ、とは思っていたし、ここで神社に立ち寄ったのもなにかの縁だと思いそう聞くと、上条さんはやや神妙な顔つきになった。

「あれを返納するのか?」
「はい」
「いいのか? 大事な物なら、もっとちゃんと……」

気を遣ってくれる上条さんに笑みを向け、首を横に振る。

「いいんです。こういう機会でもないと、きっといつまでも手放せないから。おばあちゃんに、すぐ神様に返すように言われてたんだし……いい加減、いつまでも頼ってないでちゃんと返します。それに、賑やかな方が気持ち的にも寂しくないですし」

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