石像は凍える乙女を離さない~石にされた英雄は不遇な令嬢に愛を囁く~
九歳の誕生日。
ルルティアナの腕にあったのは誕生日プレゼントなどではなく、小さな花かご。
「わたくしの誕生祝に飾る花を積んで来て頂戴、おねえさま」
普段は姉などとは、決して口にしない異母妹であるメルリアがわざとらしく甘えた口調で訴えてくる。
「花って……外は雪よ。咲いているわけがないわ」
窓の外に視線をやったルルティアナは顔を青くして首を振った。
助けを求めるようにメルリアの後ろにいる義母や父に視線を向けるが、どちらも味方をする気配はない。
それどころか、可愛いメルリアのお願いを断ろうとしているルルティアナに鋭い視線を向けていた。
「まあ!ルルティアナの分際でメルに逆らうなんていい度胸ね!」
義母が嬉々とした様子で詰め寄ってくる。
ルルティアナを攻撃する口実ができたことが嬉しくてたまらないのだ。
「花を積みに行くのが嫌なら、明日の準備に窓ふきと床磨きをしてもらおうかしら。水は外の井戸から汲んでくるのよ」
「そんな!」
今度こそ本当に悲鳴が出た。
この寒さでは井戸の水は凍っているだろう。水を汲むためには表面の氷を叩き割らなくてはならない。よしんば無事に水が汲めたとしても、どれほど冷たいだろう。その水を使って窓や床を掃除する。きっと指はぼろぼろになってしまう。
「……花を、摘んできます」
それならば雪の中での花探しの方がまだましに思えた。
運がよければスノードロップの一つでも芽を出しているかもしれないと、窓の外に目を向ければ、雪は穏やかになっているし、空には晴れ間が見えた。
「最初からそう言えばいいのよ。花を見つけなかったら晩御飯は抜きだからね!!」
勝ち誇った顔をしたメルリアと満足げな義母の視線から逃げるように俯きながら、ルルティアナは花かごを強く握りしめた。