離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる
プロローグ



「離婚したいと思ってるの」

私の言葉に志筑瑛理(しづきえいり)が開きかけた口を閉じた。

ホテルインペリアルオアシス東京のスイートルームは、高層階にあり夜景が綺麗だ。スカイツリーも見える。色とりどりの生花が飾られた新郎新婦のための部屋で、私は瑛理と向かい合っていた。

メイクも落とし髪も洗って、ワンピース姿で大きな革張りのソファに腰かける。バスローブなどくつろいだ格好になる気はなかった
まだフロックコートを脱いだだけの瑛理は、私の正面の一人掛けのソファに腰かけ、こちらをじっと見つめていた。

「それは今日結婚式を挙げた夫への言葉か」

ため息まじりの声音。瑛理の表情は困惑とも、怒っているともとれる険しいものだ。
私は力なく首を左右に振った。

「結婚式といっても、形ばかりじゃない。友人を招いたわけでもない。家族と親戚と会社関係者のみ」
「柊子(しゅうこ)」

瑛理が私の名を呼んだ。嗜めるような響きがあった。

「しばらく同居もしないというのも、そのためか」

私はこくりと頷く。この結婚に同居は不要だ。少なくとも私はそう思っている。
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