ハロー、愛しのインスタントヒーロー


私の回答に、背を向けたまま絢斗が再度念を押した。


「ほんとに?」

「うん」

「ほんとのほんと?」

「うん」

「やめるなら今のうちだよ」

「もう、分かったってば――」


絢斗が振り返る。
手にはピンクのハート形の小物入れが握られていて、それをこちらに開いて見せたまま、彼は告げた。


「奈々ちゃん。僕と、結婚して下さい」


赤い宝石がついたリング。安っぽい輝きを放っているそれは、どこからどう見ても本物ではない。


「……これね、小学生のころ、奈々ちゃんとお祭りに行った時にこっそり買ったんだ。奈々ちゃんにあげようと思って」


お祭りに行ったことは、何となく覚えている。浴衣を着てみたくて、でも着られなくて、少しつまらない気持ちになりながら絢斗の隣を歩いた。


「でも、渡せなかった。すごく緊張しちゃって……。僕はきっと、もうあの時から奈々ちゃんのこと、好きだったんだと思う」


彼の手が震えている。緊張しているのは、昔も今も同じのようだ。


「僕はね、奈々ちゃんのこと守りたかったんだ。奈々ちゃんがもう一人で泣かなくていいように、奈々ちゃんを泣かせるもの全部から守れるように、強くなりたかった。結局今も泣いてばっかりで、助けてもらってばっかりで、頼りないかもしれないけど……」

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