好き 2

別れ

静かに首を横に振る。

「そういう事だから。遥輝君、もう私と別れて。」
「や、やだ!婚約者がいるから別れるなんて!」

理由は、それだけじゃないんだよ。
君が気づいていないだけ。

「別れる理由はもう一つ、あるの。」
「・・・え?」
「遥輝君が何でもかんでもサラッとやっちゃって、私ばっかり初めて。
だから胸のモヤモヤが止まらない。こんなにモヤモヤしたくて、貴方と付き合ったわけじゃないの。だから、ごめんなさい。」
「そ、そんな事で別れたくない!深雪、僕の事嫌いになったの?」

そんな事・・・?
私にとっては重大なことなのに?
そりゃ、まだ君のことは好き。
でも、私が悩んでいたことを「そんな事」で終わらせる君は、好きで居られない。

その時、ガンッと大きな音が鳴った。
見てみると、天埜君が壁を蹴っていた。

「お前、深雪が悩んでいたことを、「そんな事」で終わらせるつもりなのか?ふざけんじゃねえよ!深雪が悩むなんて、重大なこと以外の何物でもねえだろ!」

天埜君が・・・怒っている?
私の、為に?
私のために、怒ってくれているの?
小さい頃から人のことを考えるのが下手だった、天埜君が?
いや。もう小さい頃とは違うのかもしれない。
天埜君も高校生になったのだから。

「そ、そういうつもりで言ったわけじゃない!」
「そういうつもりじゃなくても、言葉の選び方ってもんがあるだろ!」
「そ、それは、」

今こうしてみると、大好きだったはずの君が、頼りなく見えてしまう。

「深雪はな、お前になんか釣り合わねえ。」
「釣り合う釣り合わないの事は、関係ないでしょ。だって、好き同士で」
「そんな夢見がちなこと言ってるんじゃねえ!」
「っ。」
「深雪はな、俺ら名家の間では頂点に立つ女だ。文武両道才色兼備容姿端麗。
それだけじゃ飽き足らず、礼儀・マナーも右に出る者はいないときた。
おまけに宝石眼に銀髪。これは俺の家の言い伝えにしか無いがーーー、
神に愛された者の象徴だ!」
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