あやかし戦記 奪われた愛の形
チェルシーはニコリと微笑みかけ、ギルベルトが使用人の手を取って王子が姫君にするように手の甲にキスを落とす。それだけで使用人は顔を真っ赤にしていた。

「……どうか、中に入れてもらえませんか?」

チェルシーとギルベルトが懇願するように訊ねると、使用人は「はい……」と消えていきそうな声で言いながら道を開ける。

「ありがとうございます」

三人は笑ってその横を通り過ぎたのだが、使用人はよほどさっきの出来事が衝撃的だったのか、今にも倒れてしまいそうだ。

(騙してしまってごめんなさい)

心の中でイヅナは使用人に謝り、他の使用人にムサシがいる部屋まで案内してもらう。ムサシがいるのはどうやら自室のようで、あの宝飾品がたくさん並んだ部屋からは遠い。

(うまくいきますように……)

心の中で何度も祈りつつ、イヅナは「失礼します」と言いながら襖を三回に分けてゆっくりと開ける。使用人ではない女の登場に、ムサシは驚いていた。
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