禁忌は解禁された
後日一颯は、律子の部屋にいた。

「ママ、もうすぐ私もママになるよ。
私、ママみたいになれるかな?」

「姫なら、大丈夫ですよ!」
突然、後ろから声が聞こえ振り返る。

「え?銀くん!」
「すみません、姉さんに会いに来たら姫がいて…」
「ううん。
それよりも、銀くん仕事は?
颯天、帰ってきたの?」

「あ…いえ。私は別件でちょっと……」
「この部屋に、なんかあるの?」

「え?」
「だから来たんでしょ?ママに会いにじゃなくて、何か仕事で必要な物があるとか?」
一颯の真っ直ぐな瞳に、銀二は黙り込んでしまう。

「………さすが、姫だ。
貴女には、何もかもわかってしまう」

「みんな、分かりやすいもん!」

「そうでしょうか?」
「え?」

「“姫だから”わかってしまうのだと思います。
あくまでも、貴女だから。
姫は、本当によく組の人間を見ている。
見習いたいくらいです」

「え?」

「………いえ。ちょっと、タンスの中見させてくださいね」
「うん…」

颯太の遺品が入ったタンスを開ける、銀二。
「━━━━━やはり…」

「銀くん?」

「姫、では失礼いたしますね」
頭を下げ、律子の部屋から去ろうとする。

「ちょっと、待って!」

「姫」
「え?」

「貴女は、ご自分のお身体を大切にしてください」

「うん…」
「ここには、我々が守るべき“光”がいる。
だから姫は、姫自身とお子様の事“だけ”を考えてください」
銀二が一颯の腹を優しくさすり言った。


銀二の覚悟のようなものを見た、一颯。

これ以上何も言えなかった。




「━━━━━━組長、やっとわかりました。
裏切り者の正体…」

一週間後━━━━銀二が、颯天を見据えて言った。

「で?誰?」
舘市(たていち)です」

「え……舘市おじ?」
「はい」

「なんかの間違いじゃ……あ、でも銀二の情報は確実だもんな……マジかよ!!?」

「はい。私も信じられません。
“あの”舘市が、組長と姫を裏切るなんて……」

舘市とは颯太の側近で、ずっと颯太を支えてきた男だ。
元々は颯太の後輩で、颯太を慕い神龍組に入った男。
そして颯天と一颯のことも、ある意味我が子のように可愛がってくれた男なのだ。

そして銀二も、舘市を父親のように慕っていた。

舘市は今も、幹部の一人として颯天を支えてくれていた………はずだったのだ。

「とにかく、舘市に会うぞ」
「はい。でもその前に、準備しておきたいことがあります」
「ん?」



そして、また後日。

「━━━━舘市おじが、今回の騒動を引き起こしたっつうことだよな」
車内で、颯天が隣に座っている銀二に言った。

「はい。組長と姫を狙って…」
「一颯も!!?」
「はい」


「なんで……」

また、雲行きが悪くなろうとしていた。
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