ごめん、なんて大嫌い
私たちは近くのベンチに座った。彼が言うには狭い道の見通しの悪い交差点で自転車とぶつかりそうになったらしい。

「で、ぶつかる前によけたんだけど、足が滑ってこけてさ。つい手をだしたらそっちもやっちゃって。本当、俺ついてないっていうかバカだよな」

そう悠太はいつもの明るい顔で言って笑った。足は捻挫ですんだらしいが、手首はヒビが入ったらしい。しばらくは動かすのはダメなのだそうだ。

「私てっきり……。サヤカが事故って言うし」

「ごめん、心配かけて。俺もさ、たいした事無いつもりでそのままバイトにも行ったんだよ。でもなんか痛み続くし店長に言ったら病院行けって」

悠太は笑顔で続ける。

「俺もつい不安になってこんな病院来たけど失敗だったよな。待たされるだけ待たされて時間ばっかりくうしさ」

私は、そう話す悠太のいつもと変わらない明るい顔や声を聞いて、やっと落ちついてきた。そして、それと同時に、だんだん腹が立ってくる。だって……。

「じゃあ、一言でも連絡くれればよかったじゃない。ぜんぜん返事もないし。晃一くんにはしたくせに!」

「え、あ、ごめん。それがさ」

彼は申し訳なさそうに言って取り出したスマホは、画面が割れて真っ暗なままだった。

「最初はまだなんとか反応しててさ。晃一とやりとりの最中に事故ったし、一応心配してるといけないからメッセージ入れたらそこで落ちてさ、全然動かなくなって」

悠太は笑いながら話していたが、ふと、真面目な顔になる。

「でも、事故って聞いたら心配するよな、ごめん」

そう言って左手で私の目元をそっと触った。その手は少し消毒液のような匂いがした。でも、いつものちょっと不器用な感じの温かい手で、そう思ったら止まっていた涙がまた溢れた。

「めちゃくちゃ心配したんだよ。もう会えなかったらどうしようかと思って……」

「会えなかったらって……。でも、そうだよな、ごめんな」

「そうだよ、あんな、終わり方したままでって」

「本当にごめん」

「……何で謝るの? 悠太は悪くないじゃない。だって私が無視したのに。いつも謝るのやめて」

「いや、ごめん、でもさ」

「喧嘩だって私が悪かったのに。つまらない事言って駄々こねたのは、私なのに! いつも悠太が謝ってばかり。私はいつだって謝らせてもらえない。……なんか、もういいよ!」

「アキ? おい……」

どうしよう、涙も言葉も止まらない。

「もう、いい。もう知らない!」

「……アキ、知らないって、どう言う意味だよ?」

「もう、いいの。もう、知らない」ダメだよ、私。止まれ。黙って。「もう、いい。いいから。悠太は謝らなくてもよい人を見つけるべきだよ。……私じゃなくて」

言っちゃった。ずっとずっと、ここ何日も考えてて、でも言いたくなかった事を口にしてしまった。なぜか言葉を吐き出したら、涙は止まった。

悠太は私を見つめている。どこかで雀がさえずっている。

息が詰まるような一時の後、彼は下を向くと深く息を吐いた。

「お前が本気で言うなら止めれないし、そんなふうに傷つけてたのなら本当に悪かったし、謝るけど……。ああ、こういうふうに謝るのが気に入らないのか。ごめんな……」

そこまで言って悠太は自嘲気味に笑った。そんな笑い方、初めて見た。

「そうじゃなくて、違うの、悠太が悪いんじゃないの、ただ私が……」

「いや、俺が悪い」

「違うったら。なんでわかんないの⁈ 悠太は悪くないよ、悪くないのに謝る。私に怒ればいいのに、優しいから怒らない。だったら初めから謝るような事言わせない優しい人を見つけた方がいいんだよ。私じゃなくて!」

一気に言った。心臓がバクバクいってる。深みにはまっていく。もうきっと戻れない。どうしよう、泣きたい、助けて。

と、悠太がふっと笑った。

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