やわく、制服で隠して。
「それで?話したいことって?」

深春が窓際の一番後ろの席に座りながら言った。
その隣の席に私は座った。

教室で一番の特等席。
どの学年になっても席替えのたびに、誰もがこの席を狙っている。

夏休み明けの席替えで深春と一緒にこの席になれたら最高だななんて思いながら、私は重い口を開いた。

「うん。あのね…、深春のお母さん、最近変わったことない?」

「母さん?」

私の話したいことが自分のお母さんのことだとは思っていなかったのだろう。
深春はきょとんとしながらも、考える素振りを見せた。

「んー…。いや、別に普通かなぁ。」

「そう…。」

「なんで?」

ここまで来ても私はまだ迷っていた。
どこまで話せばいいのか。本当に話してしまっていいのか。

でも、話をしたいから深春を連れ出して、それを中途半端には終わらせられない。
私の話を聞いて、深春の生活が変わってしまうかもしれない。

それでも隠し事はしたくなかった。
何でも話すと約束したから。
それが私のエゴだとしても。

「野外学習のことで深春の家に謝りに行った日、深春のお母さんと話してたじゃん?」

「あぁ…洗面台の所で。」

「うん。あの時ね、私はママ似かって聞かれたの。それからママの旧姓も。」

「母さんが?どうして?」

「分かんない…。分かんないけど、ママの旧姓を教えたらおばさん、泣きそうな顔してた。」

深春は考え込んだまま何も言わなかった。
やっぱり、深春もママとおばさんの繋がりは知らなかったみたい。

「そしたらね、ママに渡して欲しいって、紙を渡されたの。おばさんの名前が書かれてた。旧姓で。」

「母さんがまふゆのお母さんの旧姓を知っていて、自分の旧姓を知らせようとしてるってことは、結婚前の知り合いだったってこと?」

「うん。それも私達と同じ年齢の頃。」

「高校生くらい?」

「うん。だから私にママ似かって聞いたんだと思う。高校生の頃のママに似てるんじゃないかな…。」
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