やわく、制服で隠して。
開いたトーク欄のカホは、やっぱり怒っている。

「何で来ないの。」

「カホより大事な用事?」

「何で無視するの。」

「学校離れた途端、」

「切るつもり?」

最後の「切るつもり?」が十九時ちょうど。
それから二時間経ってしまった。

一応開いたグループトークの最後には、今日撮ったのだろう。それぞれの高校の制服に身を包んだ、私以外の四人の写真。

カホを真ん中にして、他の三人がカホに身を寄せて笑っている。
右端のアミはやっぱり居心地悪そうな顔をしているけれど、それも私の思い込みかもしれない。

この四人の中で一番可愛い制服を着ているのはカホだけど、一番偏差値の高い制服を着ているのはアミだ。

正直、アミが同じ高校に来るなんて思っていなかったし、それは私も同じ、自分がこの高校に入学するなんて思っていなかった。
中学の頃の成績のままなら、絶対に不可能だ。

私は、グループを抜けたかった。
中学生の嫌いだった自分も交友関係もリセットしたくて、ママに頼んで中三に上がった頃から家庭教師をつけて貰った。

中三までの成績を見て、自宅に通ってくれていた家庭教師は唸った。
私と先生の根気勝負だって苦笑いもしていた。

この高校を目指すと言った時、担任には言葉を失われてカホには鼻で笑われ、ママとパパは死ぬほど喜んだ。

みんなの前では普段通り振る舞う私をグループの子は茶化したし、担任は呆れた顔をしていたけれど、家では猛勉強をする私を、親だけが応援してくれた。

だから、私と同じくらいの成績だったアミが、二学期になって急に同じ高校を受験をすると言ってきた時には、本当に驚いて、だけど心の何処かで「まさか。」って思っていたのに。

きっとアミも環境を変えたいのかもしれない。
そう決意させたのがもし私なら、と思って一緒に勉強したり、協力し合ったこともある。

アミが手に入れたかった物は何だろう。
何を望んで、あんなに必死に勉強していたのだろう。
今のアミからは何も分からなかった。

そのままトークアプリを閉じた。
通知を見ているだけでなんだか疲れてしまって。

そっと目を瞑る。
モヤモヤしていた感情も、目に焼き付いていた「切るつもり?」って文字も、すーっと消えていく。

深春のことを想った。
耳元で囁いた深春の甘い声に心がマーキングされたみたいに、身体中が深春でいっぱいになる。

出会って一日目。
何も要らないかもしれないって思った。

深春が居れば。
それ以外には何も。
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