やわく、制服で隠して。
「言ってなかったっけ。」

持っていたスマホもサンドイッチも置いて、なんとなく姿勢を正して深春を見た。

入学式の時と同じ、見下ろしながら私の名前を初めて呼んだ時みたいな、何かを見透かしているような目をしている。

「別にいいんだよ。言う義務なんて無いし。」

深春は静かに言った。
けれどそういう言い方をされると、急に突き放されたみたいな気持ちになる。

全てを深春に言う義務なんて無い。
それでも言って欲しい、全部知りたいって、言って欲しかった。

「分かった。」

それだけ言って、私はまたスマホを手に取ってイジり始めた。
自分が今出した声が拗ねていることには気付いていた。

思っていたよりも深春は私に興味なんて無いのかもしれない。
それが悔しくて、悲しかった。

ほんの数秒の沈黙。
それがすごく気まずいと思った。
私はスマホの画面を見続けているから深春の表情は分からないけれど、きっと私のほうをジッと見ている。

「まふゆ。」

もしも深春の声が“火”で、その火に息を吹きかけたら消えてしまいそうなほど、私の名前を読んだ深春の声は小さかった。

だから聞こえないふりをした。
本当はすぐにでも顔を上げたかったけれど、私自身、引き下がれなくなってしまっていた。

「まふゆ。」

名前を呼ぶ声と、短く吐き出された吐息。

あ、今の、溜め息かも。
呆れられたのかな。
でも、別に私のことなんか知りたくないみたいな言い方をしたのは深春なのに…。
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