やわく、制服で隠して。
どこまで話してたかしら?
そうそう、棗くんが冬子ちゃんを妊娠させたって言ったところまでね。
妊娠三ヶ月だった冬子ちゃんをあっさり捨てて、私にプロポーズをした。
冬子ちゃんは実家を土地ごと売りに出して、一家で引っ越していった。
私が退職するまでの三ヶ月間、冬子ちゃんのお腹はどんどん大きくなっていった。
この頃にはまだ冬子ちゃんとご主人は出会うか出会わないかってくらいの時期だし、結婚も決まっていなかったけれど、いずれ新しい出会いがあって、出産間近にまたこの町に帰ってくることになる。
同級生が男性を紹介したのはたまたまだったけれど、棗くんにとってはそれすら神の采配だった。
「なんで…そんなことをしたの?」って、冬子ちゃんに酷い扱いをした棗くんに、私は怒りを覚えて詰め寄ったの。
いくらなんでも、同じ女性として許せなかった。
冬子ちゃんがどんなに辛かったか。悔しかったか。
お腹の中ではこの人との子どもが必死に生きようとしているのに、その命すら道具のように扱われて。
この人の裏の顔、悪魔の部分を目の当たりにして、途端に怖くなった。
元々、冬子ちゃんを監視させていたのは私なのに…。
けれど彼は穏やかな表情と口調のまま言ったの。
「計画通り。全部、君の為だよ。」って。
「私の為…?」
「うん。」
「それがどうして私の為なの!?私、冬子ちゃんを苦しめてなんて頼んでない!なんでそんな取り返しのつかないことしたのよ!?冬子ちゃんがどんな気持ちでっ…!」
「君にはその発言権は無いよ。」
棗くんは冷静に、機械みたいに私を嗜めた。
私の手を握って。よしよしって赤ちゃんをあやすように。
手のひらの温かさが怖かった。
“冬子がどんなに苦しんでも、どんな目に遭っても、自分の存在をどれだけ鬼として彼女に灼きつけても、どんな手を遣ってでも冬子を手に入れたかったのは君だ。僕を冬子の見張り役にさせて、物理的に離れていても君は冬子を逃がせまいとした。君に対する僕の感情を知っていて利用したんだ。君のそういうところも僕は好きだけど。だから考えたんだ。君に特別な、何よりも価値のあるギフトを贈ろうって。僕じゃなきゃ意味の無いこと。これ以上の物なんてこの世には存在しない。”
ゆっくりと、宣教師のように淡々と話す彼の声は私を洗脳していった。
…いいえ。最初に彼を洗脳していたのは私なのかもしれない。